パンデミックを機に、アジアの医療機関はテクノロジーを活用したサービスを拡大させている。またインドでは医療体制強化の機運が高まっている。
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の拡大を背景に、アジアの医療機関はテクノロジー活用を加速させており、ポストコロナ時代には病状の診断・経過観察など、主に病院で行われていたサービスはリモート化するだろう。
こうした潮流のもと病院の機能分化がさらに進み、医療機関の主な役割は手術や難病・複合疾患の治療といった領域へ特化されていくことになろう。また地域医療機関との連携が加速することにより、医療機関の小規模化と、遠隔ICU・外来集中治療(intensive outpatient care)プログラムの普及も進むだろう。
医療機関におけるテクノロジーの活用は、患者ケアと病院運営という二つの領域でメリットが生じよう。
患者ケアの領域では、遠隔治療、リモート患者モニタリング、ウェアラブル医療機器といったテクノロジーによる機能強化が医療機関の差別化要因となるだけでなく、医療観光客への訴求力向上や収益力強化につながる可能性がある。例えばパンデミック発生後のASEAN諸国(特にシンガポール・マレーシア)では、新規患者獲得に向けて遠隔治療を強化する医療機関が増えている。
病院運営の領域では、遠隔ICU、ハイブリッド手術システム、ロボット看護・介護機器などに注目が集まっている。こうしたツールの活用によって、医療機関の運営効率化や外来医療施設へのモニタリング機能の移行、運営の最適化といった効果が見込めるだろう。またロボット看護・介護機器には、人的オペレーションの観点から生産性向上や感染リスクの軽減といった利点もある。
パンデミックによって入院治療収益の減少に直面した医療機関の多くは、コストの見直しを余儀なくされており、今後もコスト管理強化が続くと見られる。また企業が広告・研修・交通経費などの事業コスト管理を厳格化する中、医療機関も危機収束まで設備投資を控えることが予測される。
一方、4月〜5月にかけて感染拡大の第二波に直面したインドでは、医療インフラの不備が改めて浮き彫りとなった。
行政の観点からも、今回の危機はこれまで軽視されがちだったヘルスケアセクターへの投資拡大につながる可能性がある。同国の医療関連支出は、過去10年間で年平均成長率15%を記録しているものの、GDPの4%以下とアジア地域諸国の多くを下回っており、医療施設不足も依然として解消されていない。しかしパンデミックを契機に医療体制強化に向けて今後改革の機運が高まることが予測される。
こうした動きは同国の医療機関にとって追風といえるだろう。と同時に、国内製薬会社・医療機器メーカーも、パンデミックさなかの昨年11月に発表した新たな経済政策「自立したインド3.0」(Atmanirbhar Bharat Package3.0)による経済効果の恩恵を期待できる。国産化を促す同政策のインセンティブ・スキームは、こうした関連セクター企業による生産能力強化や国内外市場でのシェア拡大を後押しする可能性が高い。
Analyst, Japan Pharmaceutical & Healthcare
Head of Equity Research, India