ESGで高まる人権への意識:人権対応が事業機会になる可能性にも目配りを
気候リーダーズサミットを前に、先進各国による2030年の温室効果ガス(GHG)削減目標の積み増しが相次ぎ、米国の約50%削減と歩調を合わせて日本政府も13年度比46%削減を表明した。ただし、これは産業界の対応などと整合性を取ったボトムアップ型の目標ではなく、政治的意思を前面に打ち出したものとみられる。今後の政策面の肉付け、そしてその結果として目標の実現可能性が高まるかが注目される。
特に企業の脱炭素化を後押しするために政策面で後押しを強めようとすれば、財源の議論は不可避であろう。今後、カーボンプライシングと並んで、電力料金の引き上げが俎上に上る可能性もある。その際に原子力発電所の再稼働や新増設の議論に踏み込めるか否かは、日本の脱炭素化のマクロ面の前提条件として重要と考えられよう。
また、毎年6月めどに成長戦略が策定されるが、今年は「グリーン成長戦略」の具体論や電源構成見通しと整合性を取るために時間がかかることも予想される。足元では水素産業に対する関心が高まっており、具体的な政策面の後押しが期待される。
一方で、強制労働やジェンダーギャップなど、広義の「人権」への関心も高まってきた。コーポレートガバナンス・コード改訂案に、「人権の尊重」を付記する方針も報じられ、一部の欧米機関投資家は、女性取締役が含まれない企業の取締役選任案に反対する方針を表明している。企業としては様々な形で人権対応を迫られよう。
野村ESGマンスリー(2021年5月) 2021/5/13 より
野村證券 ESGチーム・ヘッド
野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト
野村證券 シニアエコノミスト