政府は米国内での生産を強く奨励
世界の大手自動車メーカーが発表したEV化計画は、複数の国が発表した内燃機関車の新車販売禁止までのスケジュールを受けたものである。
しかし、ハイブリッド車などの低CO2排出車は既に一般に普及している一方、EV等のゼロエミッション車の販売は政府の補助金に支えられている面も大きく、消費者に十分に受け入れられているとは言い難い。
自動車各社が今後販売する新車に関してCO2排出量の大幅削減を迫られることは避けられないとはいえ、EVへのシフトは市場が予想するほど急速には進まないとみる。
結果として、適切なペースでEVへのシフトを進められないメーカーは、戦略上のリスクに直面することになろう。
EVバッテリー技術は急速な進化を遂げているが、自動車メーカーのバッテリー改良能力は限定的である。
この分野では自動車メーカーではなくバッテリーメーカーが主導権を握っており、重要な技術へのアクセスは比較的容易である。よってこの業界では先発優位を長く享受することはできない。
技術進化のスピードが鈍化し、普及に弾みがつき、利益を上げられるようになるまでの長い期間を耐え抜き、競争の激しいEV業界で生き残ることができるのは、潤沢な資金を持つメーカーだけであろう。
バイデン大統領は就任当初から環境対策への強い取り組み姿勢を打ち出しており、特にCO2排出量の大幅な引き下げを目的として、ゼロエミッション車の普及促進と環境規制の強化を目指している。
現在上院で審議中のクリーンエネルギー法案は、
1) 米国内で生産するEV/PHEV (プラグインハイブリッド)車に補助金を2,500 USドル上乗せし、
2) 中国で製造されたEV/PHEVへの補助金を即時廃止するとともに26年以降はその他の国で製造された車両の補助金も停止し、
3) 米国内の労働組合のある工場で組み立てた場合は更に2,500 USドルの補助金を上乗せし、
4) メーカー1社当たり20万台の台数制限を撤廃し、更に
5) 税額控除でありながら納税額を上回る分の給付を認める、というものである。
仮に法案が上院で可決されなくても、バイデン大統領の方針は明らかになったといえよう。
仮に、米国外で製造した車両が26年以降に補助金の対象から除外される場合、各社はEV調達計画の再考を余儀なくされる可能性があろう。
EV/PHEV購入補助金が最終的に米国製EVやPHEVを優遇するよう設計されれば、自動車メーカーはEVの調達先を米国にシフトしない限り、26年以降は補助金対象から完全に外されることになる。
『米国自動車セクター』 2021/7/19 より
Auto sector analyst
Head of Global Autos & Auto Parts Research