米国スペシャルレポート:経済見通しの改定

景気後退入りの可能性が高まる:物価の安定回復に向けたFRBの取り組みは景気悪化をもたらそう

要旨と主なポイント

景気の勢いが急速に鈍り、連邦準備制度理事会(FRB)が物価安定の回復に注力するなか、2022年10-12月期以降に緩やかな景気後退(2四半期連続のマイナス成長)局面に入ると野村では予想を変更する。

金融環境の引き締まりはさらに進む可能性が高く、消費者信頼感は大きく低下し、エネルギーと食料供給を巡る混乱は悪化しており、米国以外の成長見通しも厳しくなっている。これらすべての要因が、予想される景気悪化に寄与する可能性が高い。

過去の景気悪化時と比較すると、消費者の財務状況ははるかに健全であり、大幅な貯蓄超過を有することから、当初の景気収縮のペースは抑えられるだろう。しかし、持続的な高インフレのため、この点が改善するまで当面、政策当局の対応余地は狭められ、金融緩和や財政刺激策による支援は制約されよう。

上記を踏まえ、22年の実質GDP成長率の野村予想を前年比+2.5%から同+1.8%(FOMC参加者予想で用いられる10-12月期の前年同期比では同年に+1.4%から同-0.3%)に下方修正した。また、23年の実質GDP成長率についても前年比+1.3%から同-1.0%(同年10-12月期の前年同期比では+0.6%から-1.2%)に下方修正する。

失業率は23年末までに5.2%、24年末までに5.9%に上昇すると予想しており、これは、同期間末に4.3%への上昇を見込んでいた従来予想を上回る。

インフレについては、住居費(賃料+帰属家賃)インフレの下方硬直性とインフレ期待の高まりを踏まえた結果、野村の経済見通し改定によるインフレ見通しへの短期的な影響は景気見通しの改定と比べるとかなり小さい。22年10-12月期のコア個人消費支出(PCE)インフレ率の見通しは前年同期比+4.4%へ、小幅(0.1%ポイント)な下方修正にとどまるが、これはコア財価格見通しの小幅な下方修正が主な要因である。ただし、23年10-12月期のコアPCEインフレ率の予想は、従来の同+2.8%から同+2.4%に改定した。

前月比でみたインフレ率は年内は高止まりする可能性が高いため、景気の悪化に対するFRBの当初の対応は弱いものとなろう。利上げは23年に入っても続くと予想するが、フェデラルファンド(FF)金利誘導目標が2月に3.50~3.75%に達した時点で利上げが終了しよう。これは従来予想(3月に3.75~4.00%)をやや下回る。一方、我々は、23年後半に複数回の利下げが実施され、FF金利誘導目標中央値は23年末に2.875%、24年末に0.875%に低下すると予想している。

『米国スペシャルレポート:経済見通しの改定』 2022/6/21 より

著者

    雨宮 愛知

    雨宮 愛知

    米国 エコノミスト

    Robert Dent

    Robert Dent

    NSI