イールドカーブが示す景気後退確率を考える
市場ではイールドカーブ(利回り曲線)の逆転と米国の景気後退リスクへの関心が高まっている。一般的な尺度の1つである2年物国債と10年物国債の名目利回りの差(いわゆる2-10年カーブ)は、4月初めに逆転し、2年金利が10年金利を上回った。しかし、3ヶ月物財務証券(Tビル)利回りと18ヶ月先3ヶ月金利の差(短期フォワードスプレッド)はさらに拡大した。イールドカーブのセグメントが異なれば、短期的な景気後退リスクを予測する力も異なるが、その意味ではイールドカーブの短期部分の方がより優れているというのが我々の見方である。
しかし、短期的な景気後退リスクの測定においてはイールドカーブに基づき景気後退確率を考察するモデルに過度に依存しないよう注意を促したい。長期的にみた名目中立金利(景気を減速も加速もさせない短期金利の水準)は2%近辺にとどまる可能性が高く、連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利を2%以上の水準に誘導する可能性が高いことから、2-10年カーブの反転は当然の流れで、23年を通じて反転した状態が続くとみるが、一方でそれだけでは必ずしも景気後退の前兆にはならないと考えている。さらに、中長期の金利差からのシグナルについては、長期金利を左右する構造的要因(タームプレミアム(保有期間に応じたリスクを相殺する価格の上乗せ)の持続的な低下など)によって歪められている可能性がある。
インフレ醸成プロセスや労働市場に生じていると考えられる構造的変化に対処すべく、23年以降にFRBをより大胆な行動に駆り立てる可能性があるが、我々は市場がこの点を過小評価しているとみている。野村では、今回の利上げ局面は23年半ばに終わり、その時点で政策金利は3.75~4.00%になると予想しているが、これは市場の金利期待に織り込まれた水準を引き続き大幅に上回っている。イールドカーブモデルは短期の景気後退リスクを過大評価している可能性が高い一方で、FRBによる急速な利上げに伴う中期的な景気後退のリスクを過小評価している可能性がある。
代替案として、我々は、FRBスタッフが米国経済予測に用いるモデル(FRB/US)を簡素化したモンテカルロシミュレーションを用いる。シミュレーション手法は過去の景気後退の度合いと期間により近いものになるよう修正した。野村が予想する22年の利上げペースは市場予想よりも急速で、利上げ休止時点の23年の政策金利の水準が市場予想を上回るため、23~24年にかけて景気後退に入る確率が高い結果になる。
FRBの政策姿勢が現在タカ派(利上げに積極的)の方向に転回していることも踏まえ、我々のシミュレーションでは、現在から24年末までに失業率が1%ポイント以上上昇し実質的に緩やかな景気後退に転じる確率は約40%となった。
我々の基本的な予想では引き続き23~24年に景気がソフトランディングするとみているが、予想期間の終わりにかけて穏やかな景気後退に入る可能性にも引き続き留意している。現在の景気のモメンタムは短期的な課題に耐えられるだけの強さがあるように見えるが、23年以降は、高金利による経済活動への制約がさらに強まる可能性が高い。
『米国スペシャルレポート』 2022/4/13 より
米国 エコノミスト
NSI
US Economist