各国の違いを認識することが重要
すべての新興国を同類とみなすことがないよう注意すべきである。ロシア・ウクライナ紛争と商品価格の高騰が新興国に及ぼす影響の度合い、ならびに主要20の新興国経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)な健全性を評価し、次のような結論に達した。
ロシアとウクライナの紛争は、世界の外貨準備保有における米ドルからの分散を加速させる可能性がある。これが積極的に行われれば、2022~26年の5年間で世界の外貨準備のドル保有額が1.7兆ドル減少するとの試算が可能である。これは、間もなく正常化(縮小)計画が発表されるとみられる連邦準備制度理事会(FRB)バランスシートの縮小と比べるとその約4分の1に相当すると推定される。
外貨準備として保有される米ドル建て債務への需要が上記のように減る見通しである点は、より大きな問題の一部にすぎない。米国証券市場全体の規模からみた負債総額は、世界金融危機以降、とりわけ近年は外国投資家の米国株式保有を通じて急上昇しており、21年7-9月期には過去最高の27.1兆ドルに達した。このうち、新興国の保有額は推定38%でかなり大きい。新興国は今後もこれらのドル建て資産を保有し続けるだろうか?
この観点からみると、資本の流れが再び先進国から新興国に向かう動きが潮流となっていく大きな転機につながり得る3つの要因があると考えられる。これらは、1)米FRBが積極的な利上げに動き出しており、米国の金融市場へ影響が生じる可能性があること、2) (グリーンスパンFRB元議長が「謎」と呼んだ)利上げを進める中でも(外国から米国への資金流入増加により)長期金利が低下した構図とは逆の現象が生じる、3)新興国における経済ナショナリズムの台頭、である。
より多くの富を有する新興国は、自国の資本市場への投資を増やすべきである。とりわけアジアの資本市場は、域内投資が域内貿易に遅れをとっており、そうしたニーズが大きい。
コロナ禍以降、我々は新興国について慎重な見方をとってきた。確かに、新興国はいくつかの点で (FRBの量的緩和縮小観測に対して市場が過剰反応した)13年のバーナンキ・ショック直前よりも健全な状態にあり、経常収支赤字はより小幅で(あるいは経常収支黒字で )、外貨準備高はより高水準にある。しかし、コロナ禍は、低成長、インフレ上昇、財政の著しい悪化など、新興国の脆弱性の原因となる新たな要因をもたらしている。これに対応して、新興国の中央銀行は、先進国の中央銀行に追随し、積極的な金融緩和、記録的な低水準への政策金利の引き下げを行い、多くの国が初めて量的緩和を実施した。外国人投資家はこれらの新たな脆弱性の原因に対する十分な見返りを得ているとはいえず、多くの新興国が突然の外国人投資家の市場リスクの再評価から打撃を被りやすくなっている。また、FRBによる金融政策正常化の見通しと、中国の深刻な成長減速の見通しは、新興国にとって不都合な組み合わせといえる。
『新興国:ロシア・ウクライナ紛争と商品価格高騰の影響』 2022/4/8 より
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