ESGリサーチ(政策): COP26全体を振り返って

COP26で更なる取り組み加速に合意

10月31日~11月13日にかけて、COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)が開催された。昨年分がコロナ禍で延期となったため、今回の開催は2年ぶりである。この2年間で世界各国は気候変動対策を大きく前進させたこともあり、今回のCOPには大きな注目が集まった。会議日程の前半で(通常は開催されない)首脳級会合が持たれたことも、金融市場の関心を呼ぶ要因と言えるだろう。野村では、この首脳級会合の結果を「ESGリサーチ(政策):COP26首脳級会合の成果」にて振り返ったが、全日程が終わったことを踏まえ、本稿でも全体を振り返ることとする。

COPの成果は、公式な成果文書であるグラスゴー気候協定の内容と、各国政府・業界団体等によるサイドディール(COP参加者独自の取組み)に分類することができる。

グラスゴー気候協定

まず、グラスゴー気候協定の内容を確認しよう。同協定は8章97項で構成されているが、気候変動問題をウォッチする上で重要なポイントは、以下の6つである。

  1. 金融支援における適応と緩和のバランスを取るため、先進国が新興国に提供する適応向け資金を2025年までに(2019年比で)少なくとも倍増させる(第18項)
  2. パリ協定で合意された「世界の気温上昇幅を2℃より十分低く抑えるとともに、1.5℃以内にするために努力する」との目標(第20項)
  3. パリ協定との整合性を踏まえたうえで、NDC(国が決定する貢献)における2030年の排出削減目標を2022年末までに再検討・強化する(第29項)
  4. NDC統合報告書を毎年発行する(第30項)
  5. 低炭素化措置のない(unabated)石炭火力発電と非効率な(inefficient)化石燃料補助金の段階的な削減(phase-down)に向けた努力を加速する(第36項)
  6. 2030年に向けた野心を検討する世界会議を2023年に開催する(第86項)

注目度が高いのは、(5)石炭火力発電と補助金に関する合意である。化石燃料や石炭にCOPの成果文書が直接的に言及したのは今回が初めてであり、世界的な気候変動対策の焦点が改めて絞られた。石炭火力発電を巡る国際的な視線はますます厳しさを増しており、10月末のG20サミット(主要20か国・地域首脳会合)にて「低炭素化措置のない新規石炭火力発電輸出プロジェクトを2021末までに停止する」ことが合意されたほか、COP26では英国を中心として脱石炭に向けたサイドディールが複数進捗した(後述)。2022年には、国内利用を含め、石炭火力発電の廃止に向けた議論が存在感を増すとみられる。

むろん、石炭利用の廃止議論は、一筋縄では行かないだろう。石炭火力発電への依存度が高い国が、慎重姿勢を示す可能性が高いからだ。今回の成果文書でも、石炭依存度の高いインド(71%)と中国(64)%が土壇場で文書の表現に修正を要求した(依存度は2019年の電源構成比)。成果文書の当初案は「段階的廃止(phase-out)」との表現を用いていたが、両国の要請によって「段階的削減(phase-down)」との表現に改められたのである。

今後の国際的な交渉を読み解く上では、2)パリ協定の目標も重要だ。同協定の目標は「世界の気温上昇幅を2℃より十分低く抑えるとともに、1.5℃以内にするために努力する」ことであり、ここでは2℃と1.5℃の2つの気温上昇幅が参照されている。いずれも野心的な目標であることから、新興国を中心として2℃目標の達成がこれまでは強く意識されてきたが、今回のCOPでは欧州勢を中心に1.5℃目標を強調する向きが目立った

この背景には、各国の排出削減目標の強化がある。IEA(国際エネルギー機関)の分析によれば、COP26で表明された各国の新目標が完全に実現した場合、今世紀中の世界の気温上昇幅は1.8℃に抑制される。すなわち、「野心」レベルでは、パリ協定と各国目標の整合性が確保されつつあるのだ。これは、COP26を大きな画期として特徴付ける事実と言えよう。

とはいえ、各国がCOP26で表明した目標を完全に実現できるとは限らない。また、気温上昇幅は小さいほど、予想される気候変動による経済的被害も小さくなる。こうした観点から、欧州を中心とした先進国は1.5℃目標をより重視することが予想される。このことは、注目ポイント(32030年時点の排出削減目標の再検討・強化とも関係する。過去2年間で各国は排出削減目標を大きく引き上げてきたが、2022年にも更なる引き上げが国際的に要請されるとみられる。

これに関連して、4NDC統合報告書の毎年発行化も重要だ。NDC統合報告書は、各国が提出するNDCを取りまとめ、排出削減のグローバルな現状を把握する上で重要な文書である。しかし、パリ協定の発効(2016年)以降に公表されたNDC統合報告書は直近版(2021年2月~10月に段階的に公表)しか存在しなかった。グローバルな取り組み状況を横比較するための重要な基盤が欠けていた状態と言えるだろう。今後、具体的な時期は不明であるものの、NDC統合報告書が毎年発行されることにより、グローバルな取り組み強化の透明性が向上することが期待される。

このほか、やや技術的な話題ではあるがCOP26の公式議題に関して、(1)パリ協定第6条における「相当調整」(クレジットの二重計上解消)が合意された、(2)京都議定書の下で発行されたクレジットは2013年以降発行分を有効とすることで合意された、(3)約束期間については2025年提出において2035年目標を提出することが「奨励される」とされた、ことなどが成果として挙げられる。

サイドディール

サイドディールは数えきれないほど存在するが、ここではアクター(参加国・団体)と内容それぞれの重要度を踏まえ、以下の6つを取り上げる。

  1. グローバル・メタン誓約の拡大
  2. 森林と土地に関するグラスゴー首脳宣言の採択
  3. 気候行動強化に関する米中共同宣言
  4. GFANZが参加金融機関の取り組み方針を公表
  5. 自動車の100%ゼロ排出加速化宣言
  6. 石炭利用の縮小に関する動き

グローバル・メタン誓約の拡大

米国・EUが共同で立ち上げたグローバル・メタン誓約は、COP26を経て、誓約国が109まで拡大した。同誓約では、グローバルな人間活動由来のメタン排出量を30%削減(2020年比)することを目指している。目標が達成された場合、2050年時点の平均気温を2℃超引き下げることが可能になる計算だ。現時点での誓約国はグローバルなメタン排出の50%程度を占めているが、メタン排出量の多い中国、インド、ロシアは誓約にまだ加わっていない。

森林と土地に関するグラスゴー首脳宣言の採択

森林と土地に関するグラスゴー首脳宣言は、2030年までに森林破壊・土地劣化のトレンドを逆転することを目標としている。宣言に参加した国・地域等は141に上り、世界の森林面積の90%程度がカバーされている。2014年に採択された「森林に関するニューヨーク宣言」が40か国・地域の賛同に止まったのに対し、グラスゴー首脳宣言ではブラジルや中国が参加するなど、参加国の間口が大幅に広がっている。官民による140億ポンドの資金調達も盛り込まれた。

気候行動強化に関する米中共同宣言

米中共同宣言は、COP26後半戦のサプライズとなった。同宣言は、米中が2020年代の気候変動対策で協調する内容を列挙したものである。ただし、宣言内容は具体性に乏しく、目新しい内容も少ない。あくまで気候変動分野における米中の協調関係をアピールするものとみるべきだろう。
強いて具体性が高い内容を挙げると、(1)COP27までに追加的なメタン削減策を講じるとともに、中国はメタン削減に関する野心的な行動計画を策定する、(2)2022年前半にメタン削減に関する会合を米中で開催する(化石燃料・廃棄物セクターの規制、農業セクターのインセンティブ制度の在り方の議論を含む)、(3)2035年の削減目標に係るNDCを2025年に提出する、の3点であろう。

GFANZが参加金融機関の取り組み方針を公表

2021年4月に立ち上げられたGFANZ(グラスゴー・ネットゼロに向けた金融連合)が、今後30年間で1京ドルの資本をネットゼロへの移行に対して提供する方針を明らかにした。GFANZには45か国から450を超える金融機関が参加しており、1.3京ドルの民間資本がカバーされている。参加機関は今後、遅くとも2050年にネット排出ゼロを実現するため、(1)10年間で約50%の排出量削減、(2)5年ごとの計画見直し、(3)ファイナンス先の排出量と進捗状況を毎年報告する、ことが求められる。また、GFANZは、民間資金を新興国に向かわせるための新たな計画を公表したほか、重要な5つのイニシアチブによってCOP27までに新興国向け資本供給の拡大を始めることを表明している。こうしたGFANZの活動は、FSB(金融安定理事会)で報告されるとのことである。

自動車の100%ゼロ排出加速化宣言

自動車の100%ゼロ排出加速化宣言では、2040年までに新車販売(乗用車・バン)すべてを排出ゼロ車にする目標が採択された(リースについては2035年までの目標達成が掲げられている)。同宣言は、中央政府、地方自治体、自動車メーカー、金融機関など、幅広い主体を想定して作成されている。中央政府では、先進国24か国、新興国10か国の合計34か国が同宣言を採択している。ただし、自動車販売台数が多い米国、中国、日本は同宣言を採択していない。
なお、輸送部門という点では、航空セクター、海運セクターにおいても動きがあった。

石炭利用の縮小に関する動き

COP26では、石炭利用の縮小に向けた動きが活発化した。「グローバルな石炭からクリーンエネルギーへの移行宣言」では、低炭素化措置のない石炭火力発電からの移行を、主要経済国について2030年代、世界的にも2040年代に完了することが謳われている。46か国・地域が同宣言を採択しているが、中国や米国、インドなどは参加していない。このほか、2017年に発足したPPCA(脱石炭強化連盟)にも新たに28の国・組織等が参加を表明している。

総評

COP26を巡る評価は、様々だろう。石炭廃止の動きが遅いと辛口の評価を下すことも可能である一方、(「野心」レベルではあるが)初めて2℃目標達成が視野に入ったことを前向きに評価することも可能だ。気候変動による被害の最小化を評価の軸に置くか、従来の取組みからの加速を軸に置くかで、COP26の評価はどのようにでも変化しうる。

サプライズという観点では、インドによる2070年ネット排出ゼロ目標の表明、そして米中共同宣言を挙げたい。

インドのネット排出ゼロ目標表明については、先進国による追加的な資金提供がないままに表明された点が意外であった。ただし、インドは、先進国の対新興国資金提供について現行目標の1,000億ドル/年から1兆ドル/年に拡大するよう要請しており、今後、資金提供を巡って先進国と新興国の駆け引きが行われることになるだろう。

米中共同宣言に関しては、共同宣言が行われたこと自体がサプライズだった。共同宣言の内容も前向きに評価できるものであったが、それ以上に、米中が気候変動分野では協調関係を維持することが確認されたことが大きい。ただし、中国は北京オリンピック(2022年2月4日~20日)・パラリンピック(3月4~13日)を控えていることから、国際社会に協調的な姿勢をアピールしたい面があったとの解釈も可能であろう。北京オリンピック・パラリンピック後にも、中国の協調姿勢が維持されるかに注目したい。

ESGリサーチ(政策):政策アップデート ― 11月前半の政策動向(2021/11/15付)より

著者

    岡崎 康平

    岡崎 康平

    野村證券 シニアエコノミスト