日本版CPは、炭素税・排出量取引・補助金のポリシーミックスが重視される可能性
カーボンプライシング本格導入に向けた議論が開始
2021年は、世界的にカーボンプライシング(炭素への価格付け:CP)が話題になるだろう。国際協調路線を掲げてパリ協定に復帰した米国や、気候変動対策で先を行く欧州でCPを巡る議論が活発化するからだ。CPは、明示的CPと暗示的CPに大別される。世界的に議論が進んでいるのは明示的CPであり、なかでも炭素税と排出量取引制度への注目度が高い。炭素税は中小企業等にも適用しやすい一方、排出量削減効果の確実性はやや低い。排出量取引制度は、排出モニタリングが可能な大企業中心の適用とならざるを得ないが、費用効率的かつ確実性の高い排出量削減を期待できる。両制度は併用することも可能である。
環境省と経済産業省がCPの議論を開始
かつて、日本はエネルギー効率が良く低炭素な経済大国として存在感を放っていた。しかし、例えば炭素生産性(=GDP/排出炭素量)の推移を確認すると、日本は1990年代以降ほぼ改善がみられていない。その間、欧米諸国は着実に炭素生産性を向上させ、2010年代以降は特にその改善度合いが著しい。
こうした情勢下で、日本政府はCPの本格導入に向けた議論を始めた。環境省と経済産業省それぞれの省に検討の場が設けられたため、両省が制度設計を巡って対立する可能性も懸念されたが、CPに慎重な姿勢を示す産業界の要望に応えるため、補助金政策の権限を持つ経済産業省が、それまでの環境省での議論を引き継いだ構図に見える。現時点で日本版CPの全容はまだ見えないが、炭素税・排出量取引制度・補助金制度の各政策を組み合わせて実施するポリシーミックスが強く意識されると考えられる。
CPによる潜在的業績インパクト
CPが企業業績に与える影響は、制度詳細に依存する。今後、政府は企業業績への影響も定量的に検証する可能性がある。単純に炭素排出量と利益水準の兼ね合いで評価した場合、利益水準への影響が大きいのは鉄鋼業、窯業・土石製品製造業、学習・教育業(大学が含まれる)、パルプ・紙・紙加工品製造業などだろう。
なお、炭素国境調整メカニズムの影響も制度設計次第であるが、総じて日本の産業は(他国と比べ)影響が小さいとみられる。本格的なCP導入に向け、各業種への負担軽減措置に注目する必要がある。また、排出量取引制度が本格導入される場合には、モニタリング技術・情報改ざん防止技術への関心が高まる可能性があろう。
日本版カーボンプライシングの議論が開始 2021/2/19 より
野村證券 シニアエコノミスト
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野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト
野村證券 ESGチーム・ヘッド