野村ESGマンスリー(2025年2月)

海外ではDEIヘの逆風、国内では人権対応

  • トランプ大統領の就任直後から高まる反ESGの動き
  • ハラスメントをはじめ、企業の人権課題解決に求められる対応とは

トランプ大統領の就任直後から高まる反ESGの動き

トランプ大統領が1月20日の就任直後から相次いで大統領令に署名した。「パリ協定からの離脱」、「天然ガスの開発促進」、「DEI(多様性・公平性・包摂性)を推進する政府の取り組みを廃止」など反ESG的なものも多く含まれる。24年の大統領選時に、自身の政策プラットフォーム「Agenda 47」にてこれらの実施を表明していたため、大きな違和感はない。

しかし、反ESGの動きは(1)米国の国際機関に対する姿勢の強硬化、(2)NGFS(気候変動リスクに係る金融当局ネットワーク)からの米国政府機関の相次ぐ脱退、(3)地方政府における反ESGの加速、と急ピッチで拡大している。加えて、「ESG投資の恒久的禁止」も、いつトランプ大統領が公約通り踏み切るか不透明であり要注意である。

ハラスメントをはじめ、企業の人権課題解決に求められる対応とは

国内において、ハラスメントをはじめ企業の人権課題に関する対応が議論の俎上に上がっている。

人権への取組みを考えるうえで、日本企業が最も参照しているフレームワークは2011年に国連人権理事会において全会一致で承認された「ビジネスと人権に関する指導原則」であると考えられる。ビジネスと人権に関する指導原則では、(1)人権方針の策定、(2)人権デュー・ディリジェンスの実施、(3)救済メカニズムの構築、という3つのステップが求められている。(3)に記している救済メカニズムとは、人権侵害リスクを把握し、救済に至るための仕組みのことで、その主たる例は苦情処理メカニズム(グリーバンスメカニズム)の構築・運用になる。

また、策定した人権方針の下、人権デュー・ディリジェンスや救済メカニズムが機能しているか、それを監督する体制の構築も求められており、民間企業では取締役会が重要な役割を担うと考えられる。2021年のコーポレートガバナンス・コードの再改訂でも、人権の尊重をはじめとするサステナビリティを巡る課題への対応について、取締役会は積極的・能動的に取り組むよ う検討を深めるべきであることが記されている。人権などサステナビリティに関する課題への対応をはじめ、日本企業全体として、実効的なコーポレートガバナンス体制が構築されることを期待したい。

野村ESGマンスリー(2025年2月) 2025/2/17より

著者

    中川 和哉

    中川 和哉

    野村證券 ESG担当

    元村 正樹

    元村 正樹

    野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト

    棚橋 研悟

    棚橋 研悟

    野村證券 エコノミスト