野村ESGマンスリー(2024年8月)

SSBJの公開草案を巡る意見の隔たり

  • SSBJの公開草案に対するパブコメ、温室効果ガス関連で意見に隔たり
  • 株主還元の数値目標を設定する企業が一段と増加
  • 人的資本投資 (能力開発費)をマクロ統計で確認する

SSBJの公開草案に対するパブコメ、温室効果ガス関連で意見に隔たり

2024年3月にサステナビリティ基準委員会 (SSBJ)が公表したサステナビリティ開示基準の公開草案に対するパブリックコメントの内容が、8月2日に公表された。2024年3月に公開草案が示された時点で、あらかじめ10個の項目についてSSBJ側から質問が用意されていたが、今回寄せられたコメントを概観すると、特に (1)温室効果ガスの排出量のスコープ1、2、3の合計値を開示するか、(2)温対法に基づく温室効果ガス排出量報告の期間が財務諸表と異なることを許容するか、(3)スコープ2の温室効果ガス排出量についてロケーション基準とマーケット基準をどのように取り扱うか、という3つの質問について、回答者の意見に相違がみられる。また、政策保有株を保有する場合の保有先企業の温室効果ガス排出量をスコープ3に含めることについて、その重要性を強調するコメントを述べる投資家も複数みられた。2025年3月までに公表予定の最終版は、国際サスティナビリティ基準審議会 (ISSB)の基準をベースとしている現在のSSBJの公開草案から大きな変更はないと考えるが、今後の動向を注視したい。

株主還元の数値目標を設定する企業が一段と増加

TOPIX1000の指数構成企業のうち、23年度には7割以上の企業が株主還元に関する何らかの具体的な数値目標を公表している。配当性向だけではなく、総還元性向やDOE (株主資本配当率)の数値目標を公表する企業も年々増加している。配当性向の目標の中心は30%台だが、40%以上の目標を掲げる企業も全体の約2割を占めるなど、株主還元の強化が進んでいる。

人的資本投資 (能力開発費)をマクロ統計で確認する

人的資本は従来、経済学の分野で議論が進んできたが、近年ではESGの分野でも注目が集まっている。実際の人的資本投資(能力開発費、OFF-JTと自己啓発支援に支出した金額)の状況についてマクロ統計で見てみると、コロナ禍の20年度、21年度にかけ減少した。23年度にかけ、やや持ち直してはいるものの、コロナ禍前の19年度の水準を取り戻すには至っていない。ただし、建設業や医療・福祉といった産業や小規模企業ではいち早く回復しており、人手不足を人的資本投資による生産性向上でカバーしようとしている可能性がある。今後についても、人的資本投資の増加が見込まれるが、研修プログラムといった人的資本投資の内容をアップデートすることが、生産性を高めるためにも重要度を増すと考えられる。リスクシナリオとして、最低賃金引上げという外生的な要因が人的資本投資の原資を奪う可能性も考えられるが、過去の事例を見る限り、そうした可能性は低いと見られる。

野村ESGマンスリー(2024年8月) 2024/8/16より

著者

    中川 和哉

    中川 和哉

    野村證券 ESG担当

    元村 正樹

    元村 正樹

    野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト

    棚橋 研悟

    棚橋 研悟

    野村證券 エコノミスト