野村ESGマンスリー(2024年6月)

企業の資本政策に前向きな変化

  • キャピタルアロケーションは今年度の株式市場の重要テーマ
  • 人的資本と企業価値、どのように結びつけて捉えるか

キャピタルアロケーションは今年度の株式市場の重要テーマ

2024年3月期決算企業の決算発表が終わり、中期経営計画の公表をはじめ、多くの企業で今年度以降の経営方針が改めて示された。東京証券取引所が2023年3月に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請したこと、2024年2月末に損保大手4社が政策保有株をゼロにする方向性を発表したことなどを受けて、新年度以降の経営方針において資本配分 (キャピタルアロケーション)について踏み込んだ言及をする企業も多かった。2024年度の株式市場において、コーポレートガバナンスの視点から、キャピタルアロケーションは重要なテーマになろう。具体的には、(1)政策保有株の縮減が進むのか、(2)日本企業の横並びの株主還元の姿勢に対する変化、(3)会社想定の資本コスト・事業別の資本収益性(ROIC、ROE等)の開示、という3つのポイントに着目している。

人的資本と企業価値、どのように結びつけて捉えるか

2024年4月、国際サスティナビリティ基準審議会 (ISSB)が人的資本について、リスクと機会に関する開示を調査するリサーチプロジェクトの開始を公表するなど、人的資本に関する開示、取組みはグローバルで加速する兆候がみられる。それでは、人的資本と企業価値をどのように結びつけて、対話、投資に活かせばよいだろうか。

人的資本と企業価値を結び付けて考えるうえで、日本企業においては2つのポイントが重要になると考える。1つ目は、「事業・人材ポートフォリオ改革の連動」である。整理解雇のハードルが高いこと、国内における人手不足の状況を鑑みると、事業の売却が順調に進まない場合などにおいては、収益性の低い部門で働く人材をリスキリングし、収益性の高い部門で滞りなく前向きに働いてもらうことが、事業ポートフォリオ改革の成否を占う1つの要素であると考える。(1)配置転換した人材への適切なリスキリング体制の構築、(2)新たな業務への適応を促す社内環境の整備、が事業・人材ポートフォリオ改革の成功のカギを握るだろう。

2つ目は、「従業員エンゲージメントの維持・向上に向けた取組み」である。従業員エンゲージメントの維持・向上について、重要な要素をあえて一般化すると(1)健康(ウェルビーイング)、(2)ダイバーシティ、(3)従業員への適正な報酬、(4)企業としてのアイデンティティの構築と従業員への浸透、という4つの項目になると考える。これら2つのポイント、6つの項目がどのように企業価値と結びつくか意識しながら対話を行うことが、企業の前向きなアクションにつながる可能性があると考える。

野村ESGマンスリー(2024年6月) 2024/6/13より

著者

    中川 和哉

    中川 和哉

    野村證券 ESG担当

    元村 正樹

    元村 正樹

    野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト

    岡崎 康平

    岡崎 康平

    野村證券 シニアエコノミスト