人的資本への注目度、さらに高まる
2024年度は、人的資本への注目度がさらに高まると予想する。2024年4月、国際サスティナビリティ基準審議会 (ISSB)は人的資本、生物多様性という2つのテーマについて、リスクと機会に関する開示を調査するリサーチプロジェクトの開始を公表した。
言い換えれば、2つのテーマはISSBが次に開示基準の策定に取り組む有力な候補であることを示している。金融庁は、2023年8月にISSBの意見募集に対してコメントレターを発出し、今後のリサーチプロジェクトにおいて人的資本に優先的に取り組むことを提言していた。現時点で、人的資本については金融庁と同じベクトルを向いてISSBにて検討が進んでいる形になる。2024年4月に公表された生命保険協会のアンケートからも、企業側、投資家側の双方で人的資本への高い関心が見受けられる。
人的資本については、2023年1月に改正開示布令が公布・施行され、多様性に関する指標や人材育成方針など、人的資本に関する開示が有価証券報告書で義務付けられている。また、「人材版伊藤レポート2.0」、「人的資本可視化指針」など、人的資本の活用に向けて企業が取り組むべき方向性を示すため、様々なガイドラインが出されている。特に、人材版伊藤レポート2.0で言及されている「経営戦略と人材戦略を連動させる取り組み」、「従業員エンゲージメント向上に向けた取り組み」は、企業価値にも影響する部分が大きいと考える。
また、株式市場では企業価値向上の観点から日本企業の事業ポートフォリオ改革の行方に注目が集まっているが、事業に紐づく人材をどのようにケアするかも重要な論点になろう。日本の場合、整理解雇において4つの要件を満たす必要があり、米国などと比較して人件費削減のハードルは高い。国内における人手不足の状況を鑑みても、事業の売却が順調に進まない場合などにおいては、収益性の低い部門で働く人材をどのようにリスキリングし、高いモチベーションを保ちながら収益性の高い部門で働いてもらうかが、事業ポートフォリオ改革の成否を占う1つの要素であると考える。経営陣の役員報酬改革や、株式報酬の導入を含めた従業員の報酬改革も、経営陣、従業員のリテンション、モチベーションを高めるという意味で、人的資本の活用に向けた有力な施策の1つであると考える。
野村ESGマンスリー(2024年5月) 2024/5/20より
野村證券 ESG担当
野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト
野村證券 シニアエコノミスト