野村ESGマンスリー(2024年4月)

ESGを推進するトレンドの逆流はないと予想

  • 多国籍で事業を営むグローバル企業の活動は1つの国家の意向に拠らない
  • 資本政策の改善、事業ポートフォリオ改革を取締役会が後押しできるか

多国籍で事業を営むグローバル企業の活動は1つの国家の意向に拠らない

米国では2022年頃から、レッドステート(共和党寄りの州)を中心に反ESGの動きが活発化している。加えて、2024年11月の米国大統領選挙においてトランプ大統領が再び誕生すれば、パリ協定からの再脱退、エネルギー規制の緩和など反ESG的な政策を推進する可能性が高い。米国以外でも、ここ数年はESGの取組みと経済成長を両立させる観点で政策を修正する動きがみられる。欧州では、2022年にEUタクソノミーを改正し、原子力や天然ガスにまつわる経済活動を一定の条件を付けたうえで「グリーン」と区分することを容認したり、最近では企業持続可能性デューディリジェンス指令(CSDDD)が従来より売上の閾値を上昇させ、猶予期間を長く設ける形で妥結する見通しになっている。日本においても、世界初であるトランジション国債としてGX経済移行債を発行することは、本来淘汰される可能性のあるGHG多排出産業の低炭素化を支援するという意味で、脱炭素を含むESGの取組みと経済成長を両立させるという国としてのメッセージであるとも解釈できる。

ただし、長期的視点に立った場合、脱炭素を含め、世界的にESGの取組みを進めるペースが緩まる可能性はあるが、後退することはないと予想する。多国籍で事業を営むグローバル企業は、1つの国家の意向に拠らず、脱炭素を含めたESGの取組みをすでに進めている。さらに、欧州や米国のブルーステート(民主党寄りの州)では、温室効果ガスの排出量削減に関する目標や人権保護に関する取組みの推進が法的拘束力を持つ形で制定されるなど、ESGに関する取組みの推進が義務付けられている。経済成長との両立を見据えながら歩むペースは変化するが、脱炭素を含めたESGの取組みを進展させるトレンドがグローバルで逆流する可能性は限りなく低いと考える。

資本政策の改善、事業ポートフォリオ改革を取締役会が後押しできるか

日本株が2023年4月以降、上昇してきた背景の1つに、東証の要請をきっかけとした企業の資本政策改善、事業ポートフォリオ改革への期待があると推測する。加えて、コーポレートガバナンスの文脈では、東証が企業経営の中枢を担う取締役会に現状分析や計画策定・開示という具体的なアクションを要請したことも、大きな意味を持っていたと考える。政策保有株縮減や株主還元の拡充が着実に進むなか、今後は改善の余地が大きい取締役会の十分な機能発揮に改めて焦点があたると考える。

野村ESGマンスリー(2024年4月) 2024/4/11より

著者

    中川 和哉

    中川 和哉

    野村證券 ESG担当

    元村 正樹

    元村 正樹

    野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト

    岡崎 康平

    岡崎 康平

    野村證券 シニアエコノミスト