野村ESGマンスリー(2024年2月)

「開示」は「開始」。企業価値への貢献が鍵

  • 東証の「要請」を受けた取り組み策の発表は企業価値向上への開始宣言
  • TNFD早期採用企業は世界で320社のうち日本が80社
  • CDPの「トリプルA」企業は中長期的に企業価値の拡大ができているのか

東証の「要請」を受けた取り組み策の発表は企業価値向上への開始宣言

2023年末時点でプライム市場上場企業の40%が東証の「要請」を受けて取り組み策を開示済で9%が検討中、と1月15日に東証が発表した。ESG評価との関係では、ESG評価が高めの企業群は開示姿勢がより積極的とみられることや、未開示の企業はPBRが高めである一方ESG評価とは明確な関係が見られないといった整理ができる。

開示企業が増加したとはいえ、検討中を含めてもCG報告書へ記載した企業はプライム市場の半分程度にとどまり、開示内容についても改善余地が指摘されている。そして何よりも対応策が企業価値向上につながったという事例は広がっていない。こうした点からは、今回の開示はあくまでも開始の宣言であると言えよう。

TNFD早期採用企業は世界で320社のうち日本が80社

世界経済フォーラムの年次総会に合わせてTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)開示枠組みの早期採用企業が発表されたが、世界全体で320社のうち日本企業が80社と突出した(2位はイギリスの46社、3位はフランスの19社)。自然関連の環境変動が各企業にとってどのような事業機会やリスクになるかの開示について、日本企業が世界に先駆けて意欲を高めている形であり、評価したい。とはいえ、リスク要因として環境変動を開示するだけでなく、そうした課題を踏まえた上でどのように企業価値向上につなげていくのか、今後の各企業の具体的な取り組みがより重要である。

CDPの「トリプルA」企業は中長期的に企業価値の拡大ができているのか

また環境対応の情報開示の評価という点では、2月6日に英NGOのCDPが2023年の調査結果を発表した。気候変動、森林保護、水セキュリティの3分野についてグローバルで21000社以上の会社をスコアリング、396社が少なくとも1分野で「Aランク」を獲得した。そして3分野すべてが「Aランク」の「トリプルA」となったのは10社にとどまった(うち日本企業は2社)。情報開示においてはこうした企業はトップクラスであると言え、ポジティブなブランドイメージにつながりやすいと考えられる。

「トリプルA」10銘柄について、他のESG評価機関によるスコアを見ても高評価となっている場合が多い。一方で、こうした企業への株式市場の評価を、各企業のマザーマーケットの代表的な株価指数との相対株価でみると3年、5年といったやや長めの期間でアンダーパフォームしている銘柄が大半である。情報開示は重要であるが、それが企業価値向上と必ずしも結び付いていない可能性には留意しておきたい。

野村ESGマンスリー(2024年2月) 2024/2/19より

著者

    若生 寿一

    若生 寿一

    野村證券 ESGチーム・ヘッド

    元村 正樹

    元村 正樹

    野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト

    岡崎 康平

    岡崎 康平

    野村證券 シニアエコノミスト

    Naoya Fuji

    Naoya Fuji

    Equity Strategist