環境リスク悪化は反ESGの歯止めになるか?:脱炭素への取り組みの後押しとなりうるが、様々な政治的な駆け引きの行方からも目が離せない
米国で金融機関をターゲットにした反ESG的な政治圧力が続いている。米国23州の検事総長がNZIA(Net Zero Insuarance Alliance)加盟社に対し、積極的な気候変動対策が独禁法や保険提供拒否の理由を限定する州法に違反する可能性があることを指摘した書簡を送った。それを受けてNZIAからの加盟保険会社の離脱が相次ぎ、日本の損保3社を含む計18社の離脱が確認された。現時点では、14社が残る形となっている(6月8日現在)。各社それぞれが保険引き受けポートフォリオのネットゼロを目指すとしているが、脱炭素には逆風となりうる。また、州の公金を扱う銀行に対しても、社会的・政治的問題への関与を強めないようフロリダ州が警告するなどの圧力も続いている。
一方、欧州では冬の降水量が記録的に少なく、水不足や生態系への懸念が強まりやすい状況である。南スペインにある欧州最大級の自然保護区から違法に取水して、(生態系を犠牲に)栽培されたイチゴをボイコットする動きがドイツで起きており、フランス西部でも貯水池計画を巡る農家と環境保護派の対立が起きている。欧州の水不足は河川を原子炉冷却に使用する原発の運転に影響するなど経済活動へのリスクも大きい。加えて、5月以降相次ぐカナダの山火事によりニューヨークが深刻な大気汚染を被っているが、地球温暖化などによる異常気象が一因とされている。こうした環境リスクの高まりが脱炭素に向けた取り組みを再度後押しすることになるか、注目したい。
11月にUAEで開催されるCOP28に向けても様々な駆け引きがみられている。昨年のCOP27では気候変動による悪影響を受けた国々に対する「Loss and Damage Fund」の創設が決まったが詳細は未定である。そうした中、昨年バルバドスのモトリー首相が提唱した島しょ国を含む発展途上国を資金面で支援する枠組み「ブリッジタウン・イニシアティブ」と、6月に総裁が交代した世界銀行の改革期待、COP28の議長としてリーダーシップを握りたいUAEのジャーベル産業相の思惑が相俟って1000億ドルの基金創設に向けた動きが見られている。6月22、23日にパリで開催される会議には注目したい。一方、ジャーベル議長が国営石油会社CEOを兼務しているため議長として不適当と、交代を求める動きもある。11月に向けて様々な駆け引きが行われることになろう。
東証の「要請」を踏まえたセクターの動きなどについて、6回目の「野村アナリストESGサーベイ」の結果をまとめた。株価が企業価値に比べて割安であるとみられるような企業やセクターで一部動きはあったが、ある程度の施策を行っていることや、「要請」が年度末だったことなどから、現状では大きなサプライズではない模様である。今後、企業の取り組みが株価の意識を強め、企業価値を向上させる方向に一段と変化することになるのかどうか、注目したい。
野村ESGマンスリー(2023年6月) 2023/6/15 より
野村證券 ESGチーム・ヘッド
野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト
野村證券 シニアエコノミスト
野村證券 アナリスト