野村ESGマンスリー(2023年5月)

ESGの政治問題化はどこまで拡がるか?

  • 米国で一段と政治問題化するESG
  • 米国株主総会では人的資本関連の決議案が増加
  • 日本の株主総会では女性取締役・資本効率性・環境対応の強化に注目

米国で一段と政治問題化するESG

米国で共和党を中心にした反ESGの動きが強まっている。その急先鋒とされるフロリダ州のデサンティス知事は、同州での性的マイノリティに対する教育制限を大手エンターテイメント会社が批判したため、同社のテーマパーク事業運営に介入できる立法措置を行った。そして、それに対して企業側が知事を提訴する事態となっている。企業活動に踏み込む事例は限定的であるが、今後の政治情勢次第で公金運用におけるESG要素の排除にとどまらず、反ESGを理由にした企業活動への制限の動きが広がる可能性も否定できない。支持率など政治面への影響と共に今後の動きには要注意である。

米国株主総会では人的資本関連の決議案が増加

政治情勢との関係は不明だが、欧米の株主総会で、大手石油会社や大手銀行に対して環境対応強化を求める環境団体などの決議案への賛成は伸び悩んでいる。他方、株価低迷などを背景に会社が提出した役員報酬提案に60%の反対票(拘束力なし)が投じられるなど、経営陣への批判は散見される。また、報道によれば、今年は従業員のWell-beingに関する140件以上の決議案が提出された。3月の大手コーヒーチェーン会社の株主総会では、従業員の権利について第三者評価を求める決議が僅差で可決された。こうした人的資本関連の関心の高まりに対して米国内での反ESG的な考え方が反発を強め、政治問題化に拍車をかけることにならないか、注目しておきたい。

日本の株主総会では女性取締役・資本効率性・環境対応の強化に注目

一方、6月にピークを迎える日本の株主総会では、以下の3点が注目される。第一に、女性取締役の増加である。女性取締役のいない企業の取締役選任議案に対して反対を表明する投資家が増えていること、加えて岸田首相が2030年までに女性取締役を3割にすると目標設定したことなどが後押しとなる。これまで女性取締役がいなかった企業の動きを含め、どの程度増加するのかが注目である。第二に、東証による企業価値向上への取り組みの要請を踏まえて各社がROEなどの資本効率性をどのように改善し、企業価値を向上させていくのか、という各社の戦略やその開示に注目したい。第三に、米国と比べ反ESGの動きが強くない日本で、情報開示を含めて企業の環境対応を強化することを求める投資家の動きが強まるのかも注目される。

野村ESGマンスリー(2023年5月) 2023/5/11 より

著者

    若生 寿一

    若生 寿一

    野村證券 ESGチーム・ヘッド

    元村 正樹

    元村 正樹

    野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト

    岡崎 康平

    岡崎 康平

    野村證券 シニアエコノミスト

    有井 菜月

    有井 菜月

    野村證券 アナリスト