東証の「要請」はボックスティッキングへの警告:新形式的対応を前提に、企業価値向上に向けた企業の取り組みがさらに重要に
東証が3月31日に発表した、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」は、中長期的な企業価値向上への取り組みが十分とは言えない企業に対する強い要請である。そうした企業に対して一過性の対応を求めるものではないと釘を刺し、コーポレートガバナンス・コードの原則を満たさない項目についての「エクスプレイン」が不十分な例を挙げて改善を求めている。形式的対応に終始して実質的な企業価値向上に取り組まない企業に対する警告ともとらえられよう。
こうした中、経産省の「健康経営銘柄」に複数回選出され、社員の健康に配慮した経営が評価されている企業の株主総会で、CEO再任に対する賛成比率が50.5%となったことが注目される。取締役に女性がいないという理由で、一部の議決権行使助言会社が取締役選任案に反対推奨していた影響が指摘されている。海外の年金基金などで同様に女性取締役の有無等を議決権行使基準とするケースもある。女性取締役の有無だけで企業価値が左右されるわけではないが、形式的な対応ですら不十分とみなされた場合に株主総会などで投資家からの反対を受ける場合も増加しよう。最低限の形も整えた上で実効性のある取り組みを進めることが求められる。
足元のニュースフローを整理した後、アジアの主要市場に上場される主要企業のESG評価の状況を日本と比較してみたところ、アジア市場が日米市場に大きく見劣りしない状況が示される一方、「S」や「G」での日本側の改善余地が示唆される形になった。
『野村ESGマンスリー(2023年4月)』 2023/4/13 より
野村證券 ESGチーム・ヘッド
野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト
野村證券 シニアエコノミスト
野村證券 アナリスト