「PBR=ROE×PER」への意識を求める東証:新年度以降の情報開示充実が、日本のガバナンス改善期待につながるための必要条件
東証の「市場区分見直しに関するフォローアップ会議」を踏まえて公表された「企業価値向上に向けた対応」案をきっかけに、PBR1倍割れ企業の対応に注目が集まっている。「PBR1倍割れでキャッシュリッチ企業」による自社株買いの増加も市場では期待されている。しかし、フォローアップ会議が求めているものは持続的な企業価値の向上であるため、自社株買いを行った後の企業の戦略こそが重要であろう。その点では、PBR1倍割れが低収益力によるものか、成長性の欠如によるものなのか、あるいはその両者か、を意識して、将来的な経営戦略を示すことが不可欠と言えよう。
4月以降に発行される有価証券報告書では、サステナビリティ情報の記載欄が新設され、考え方や取り組みを記載することが義務化される。今後の企業価値向上に向けたマネジメントの関与や、人的資本増強に向けた人材戦略の方針などは今後の成長性を見極める重要なツールとなりうるため注目される。また、気候変動関連の開示に対する企業の姿勢も重要であり、主要企業のGHG排出データと削減目標をアップデートした。そうした中で建設などでは、製品(建物)のライフタイム排出量削減を訴求することと紐づけたような開示拡充を行っている印象もある。また商社として初めて把握や削減が難しいカテゴリー11(販売商品の排出GHG)を算出・開示した企業などは、今後のGHG削減取り組みへの強いコミットを示しているものとも評価できよう。
今年に入ってから、グローバルには再エネ関連企業の業績伸び悩みが意識されている。太陽光関連では、高成長継続期待が修正され、一部企業では政治資金関連の問題も指摘されている。風力関連は、サプライチェーンの問題や故障への対応に伴うコスト上昇が業績回復に悪影響を及ぼす懸念などが意識されている模様である。再エネ導入自体は今後も継続すると期待されるが、関連企業の業績が伸び悩むと導入ペースにも影響することもありうるため、注意しておく必要があるだろう。
『野村ESGマンスリー(2023年3月)』 2023/3/9 より
野村證券 ESGチーム・ヘッド
野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト
野村證券 シニアエコノミスト
野村證券 アナリスト