「分断された世界」は脱炭素で協力できるか:国家間のせめぎあいが続く中、脱炭素に向けた技術開発など企業の具体的な動きに引き続き注目
1月の対面開催としては3年ぶりとなる世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)が開催された。「分断された世界における協力の姿」をメインテーマとして様々なセッションが行われたが、会議終了後Financial Times (23年1月23日)は、会議での注目すべきESGの論点として以下の4点を挙げている。(1)米国のインフレ抑制法案(IRA)の余波が続く、(2)Scope3への逆風が強まっている、(3)グリーン水素への強い期待、(4)COP28についての議論である。いずれもメインテーマと関連した示唆がうかがわれる論点である。
米IRAの保護主義的要素は既に様々な指摘を受けており、日本やEUなどが米国に適用除外を要請している一方で、欧州委員会は脱炭素推進のための政策対応のアップデートを公表した。米国や欧州では景気の先行きへの不安も残る中で、米大統領選を24年に控えた状況下、脱炭素を中心とした国内(域内)向けの景気対策が、分断された世界の各所で(結果的に協調して)推進されることになろう。日本政府の脱炭素政策が加速することになるか注目したい。また、今年UAEで開催されるCOP28は、産油国と非産油国の対立に加えて化石燃料依存からの移行を巡る協力を含む様々な議論を象徴するようなイベントとなりうる。「グローバルサウス」が脱炭素で協調する動きを強められるか、今後の各国の動きからも目が離せない。
Scope3への逆風は、情報開示に対する法的責任追及の可能性や米国などでの「反ESG」への懸念、データ収集の困難さなどに起因するとFT紙は指摘している。ただし、政治的要因が情報開示進展の障害となっているとしても、ISSBの方針などを踏まえた企業の動きが脱炭素の流れを継続させるという我々の見方には変化はない。そうした中で、新エネルギーとしての水素、しかも再エネを使用して生産されるグリーン水素への注目が強まるのは脱炭素への望みの綱と位置付けられるのかもしれない。今後、企業間の協力関係の下で世界の水素バリューチェーン構築、実装が進むのかは日本企業の事業機会の広がりとも関連することになるため注目される。
『野村ESGマンスリー(2023年2月)』 2023/2/9 より
野村證券 ESGチーム・ヘッド
野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト
野村證券 シニアエコノミスト
野村證券 アナリスト