様々な思惑の交錯は続くが「脱炭素」は維持:ISSBの基準策定もあり、企業の中期的な環境対応姿勢が世界的な脱炭素に向けた動きを下支えしよう
2023年の幕開けは、国家ごとの動きをみると、様々な思惑や利害が交錯する形となっている。米国のインフレ抑制法案とEUの炭素国境調整メカニズム(CBAM) は、いずれもそれぞれの国内(域内)の経済対策と気候変動対策を名目とした保護主義的要素を併せ持ち、米欧間の通商摩擦の火種となりうる。昨年のCOP27での「損失と被害」基金創設の合意は、先進国と発展途上国の対立緩和に寄与することが期待されるものの詳細は未定であり、二国間の資金援助などと合わせ、今後の展開は不透明である。加えて、昨今のエネルギー危機の原因が先進国による投資不足であると一部産油国が主張し、脱炭素にブレーキをかけるような動きにもなっている。奇しくも今年のG20議長国はインド、COP28の開催国はUAEである。こうした利害錯綜が簡単に収束するとは考えにくく、G7議長国の日本の役割が問われる局面もあろう。
世界的な「グリーンウォッシュ」批判、米国内の政治情勢とも関連した「反ESG」の動きとそれに関連した国際的な金融面の枠組みからの離脱の動きといった混乱も見られ、ESGに対する逆風も懸念されかねない状況である。こうした動きに対し、ISSBによる気候変動関連の情報開示に関して、導入時期については先送りされたもののScope3開示が決定されるなど、企業はサステナビリティ関連の情報開示を進めることを要請されている。それに合わせて各企業はGHG排出削減を含む様々なサステナビリティ課題への取り組みを進めることが期待できよう。
野村では、年に2回、社内のアナリストに対して担当セクターのESGへの取り組みについての判断を尋ねる「ESGサーベイ」を行っている。今回の調査結果をみると、業績下振れ懸念などを反映して、対応の足踏み感は否定できない。しかし、環境面を中心に、先行きの対応を再強化しようという意欲が示されている形になったと考える。国家間の利害の錯綜は気になるが、企業のESG対応の進展が、「脱炭素」の動きを下支えすることになると期待できる。
『野村ESGマンスリー(2023年1月)』 2023/1/12 より
野村證券 ESGチーム・ヘッド
野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト
野村證券 シニアエコノミスト