野村ESGマンスリー(2022年8月)

E・S・Gは切り離せるのか:確固としたガバナンスがなければ環境も人権もない

  • 「ESG」への考え方の混乱が続く中、「E」を優先すべきという見方も
  • コスト削減が必要になった場合、サステナビリティ関連支出が対象に?
  • サプライチェーン管理も人権対応も根本にあるのはガバナンス体制

「ESG」への考え方の混乱が続く中、「E」を優先すべきという見方も

ESGに対して様々な疑問や批判を呈する動きが続いている。ステークホルダー資本主義の旗印の下、企業が様々な対応を行ってきたが、それが「見せかけ」だったのではないかといった疑問や、そもそも目標が多すぎて結局何もできないのではないかという批判などである。海外メディアの中には、そうした中でも地球温暖化とそれに関連するとみられる異常気象を抑制するため、E、特に温室効果ガス排出(Emission)削減を優先すべきではないかと論じているところもある。​​​

コスト削減が必要になった場合、サステナビリティ関連支出が対象に?

一方、米国の調査・コンサルティング会社が約130社のCEO・CFOに対して行った調査では、今後コスト削減が必要な場合、M&Aとサステナビリティ関連が対象になる、という回答がそれぞれ約4割となった。企業業績の鈍化が続いた場合、企業の環境対応が減速する懸念も否定できない。そうした状況でも中長期的な視点で環境対応を続けられるかどうかは経営判断、すなわちガバナンスの問題であろう。確固としたガバナンス体制がなければ、いくら開示制度が改良され、温室効果ガスの計測制度が改善しても着実な温室効果ガス削減は難しいであろう。

サプライチェーン管理も人権対応も根本にあるのはガバナンス体制

同様に、今後温室効果ガスの削減対象がScope3に拡大すると、サプライチェーン全体が対象になる。Scope3の温室効果ガス削減と共にサプライチェーン管理が必要となり、付随する人権対応も要請されることになる。TCFDに対応するとしても、人権侵害のデューデリジェンスを行うにしても、確固としたガバナンスがなければ実質的な対応は期待できないのではないだろうか。その意味では、例えば目先はEに重きを置くとしても、ESGを切り離して考えるということはむしろ現実的ではないと考えられる。言い換えれば、現状の逆風下でしっかりしたガバナンス体制を伴ってESG対応が進められるかどうかが、中長期的に企業のサステナビリティを見極める機会なのかもしれない。

『野村ESGマンスリー(2022年8月)』 2022/8/10 より

著者

    若生 寿一

    若生 寿一

    野村證券 ESGチーム・ヘッド

    元村 正樹

    元村 正樹

    野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト

    岡崎 康平

    岡崎 康平

    野村證券 シニアエコノミスト