企業のESG取り組み進展への見通しは維持:ESG投資は「正義の味方」?
ESG投資が本当に脱炭素を後押しするのか、といった懐疑論が様々な形で生じている。背景として、第一に米国企業の株主総会で、環境保護団体などの株主提案に投資家の賛同が集まらず、脱炭素に腰が引けたという批判がなされたことがあろう。第二に、イギリスの大手運用会社の責任投資担当幹部が、当局が気候変動による金融面のリスクを誇張しすぎていると述べたこと、さらに、調査や情報開示が不十分なまま運用会社が資金の募集にあたって「ESG」を宣伝材料として使っているだけではないかという疑いで米金融当局が規制に動き、独当局が捜査に乗り出していることなどが挙げられよう。特に最初の点は、投資家が企業の環境対応を後押しする意欲が政治的配慮もあって薄らいでいるのではないか、という疑念にもつながっている。
国際情勢などを受けて化石燃料消費が膨らんでGHG排出量が増加している現状を踏まえ、地球温暖化抑止のために脱炭素への対応は強化されこそすれ後退は許されない、といった考え方がこうした懐疑論の背景に見受けられる。脱炭素のための環境対応加速は必要であろう。しかし、ESG投資は寄付ではない。投資先のキャッシュフローを減少させ資産価値を毀損するような圧力が継続的な投資リターンをもたらすとは考えにくい。サステナブルかつ実現可能な形で投資先の取り組みの加速を促すことが現実的には投資家の対応と考えられよう。「投資リターンを犠牲にした社会正義の実現」をESG投資に求めることはやや行き過ぎた考え方と言えるのではないだろうか。
もちろん、ESG関連の情報開示が不十分であることでESG投資への疑念が生じていることについては大いに改善の余地がある。その疑念ゆえに懐疑論への反論が説得力を欠いている側面もあろう。企業の情報開示についてはISSBの開示基準草案に対するパブリックコメントが行われており、年内にも基準が決定される予定である。しかし、シナリオ分析などによる情報開示が充実しても、脱炭素に向けた歩みが確認できないうちは、企業や運用会社に対する何らかの疑念が残る可能性には注意しておきたい。
野村アナリストに対して、担当セクターにおけるESG対応をどのように評価するかという「主観」を問う、第4回目となるサーベイを実施した。前回(2021年末)のサーベイでは、2021年のESGへの取り組みはアナリスト想定をやや上回るという結果が示された。今回のサーベイでは、足元ではややスピード調整感もあるが、先行きの対応進展への見通しは維持されているという結果となった。
『野村ESGマンスリー(2022年6月)』 2022/6/9 より
野村證券 ESGチーム・ヘッド
野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト
野村證券 シニアエコノミスト
野村證券 マクロ・ストラテジー