サプライチェーン管理も「S」の要素になりうる:ガバナンス実効性と収益改善の好循環が成り立つか?
ロシア・ウクライナ紛争をめぐる国や企業の様々な対応が引き続き報じられている。紛争の帰趨や人道問題などから目は離せず、コスト上昇などで企業業績が下振れする可能性も懸念される。しかし、欧州がエネルギーのロシア依存を下げる計画を立てる一方、サプライチェーン上での人権問題への関心が一段と高まっているため、企業は紛争地域からの原材料調達削減を検討せざるを得ない。国、企業として紛争後を見据えた原材料などのサプライチェーンをどう構築していくかが問われているともいえよう。
中期的に日本企業の収益力が底上げされる中、昨年のコーポレートガバナンス(CG)・コード改訂により、企業によるESG対応の取り組みと収益力改善を通じた企業価値向上に向けた施策が共存する可能性が見えてきている。こうした状況を踏まえ、ガバナンスの実効性が高まっていけば、日本企業が欧米企業に比べ劣後していると指摘されることの多い「G」への評価改善が期待できる。そして、「G」中心に日本企業へのESG評価が底上げされてくるのではないか。こうした見方をベースに、直近、野村證券は北米投資家を訪問した。
今回の北米投資家訪問では、収益力改善と制度的な後押しが「G」の評価改善につながる、という見方には一定の理解が得られた印象がある。一方、日本企業の経営スピードの遅さを指摘する懐疑的な声、日本の投資家行動や企業行動がESGやCGコードによって本質的に変わったのか、という質問もあった。米国では企業経営や投資においてESG対応よりも業績や運用成績が優先されやすいという意識を反映している部分もあろう。そうした意識もあり、ESGを取り入れた投資スタイルについては、それぞれの投資家による試行錯誤が続いている印象を受けた。また、政策面ではエネルギー需給の構造変化を反映して、日本の原発の再稼働の実現可能性や新規投資の可能性についての関心が高かった。
『野村ESGマンスリー(2022年4月)』 2022/4/7 より
野村證券 ESGチーム・ヘッド
野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト
野村證券 シニアエコノミスト