柔軟で強靭なサプライチェーン構築が課題に:企業の中長期的な環境対応、人権対応の方向性は変わらない
ウクライナ紛争の帰趨が不透明な中、今後の金融市場環境や景気への悪影響が懸念される中ではあるが、長い目のESG的な観点でマクロ・ミクロの状況を整理しておきたい。まず、世界第4位のGHG排出国であるロシアの対応次第では、今後国際的な地球温暖化対策の足並みが乱れるリスクがある。11月のCOP27(エジプト)にむけて、先進国と新興国の関係など様々な動きに注意が必要となろう。
そしてエネルギー供給が不安定になることが、特に欧州での脱炭素計画に与える影響も見過ごせない。再生可能エネルギー投資を推進する長期的な方向は変わらないと考えられるが、天然ガスの安定供給という暗黙の大前提が揺らぐ中、足元のエネルギー価格高騰が欧州はじめ各国の景気や企業の投資計画に悪影響を及ぼす可能性、また政権批判など政治的なリスクにも目配りが必要である。
原燃料や鉱物、穀物などの物流に加え空運などサービスの面でも世界的なサプライチェーン(SC)が影響を受け、企業は短期的、中長期的な視点での対応が求められよう。企業については、短期的には物理的に企業活動ができなくなることなどに対する事業継続計画(BCP)やエネルギー・素材調達などで厳しい対応を迫られることも想定される。
一方、中長期的にはリスクと事業機会を踏まえて環境対応を進めるという方向性、そうした中で人権対応も含めてSCを透明化、強靭化するという方向性に変化はないと考えられる。今後、紛争地域からの原材料調達や現地での事業活動に対して、株主や消費者を含むステークホルダーからの厳しい視線が続くのであれば、紛争収束後のSCは紛争前と同じにはならないという前提に立つ必要があろう。今後の様々なリスクを考慮しつつ各企業は柔軟で強靭なSCをどのように構築するかが問われることになろう。そうした動きが、将来的に新事業開発や技術革新を行う後押しとなっていく可能性にも注目したい。
日本企業の脱炭素対応という観点では、前期は、期中に当時の菅内閣によるカーボンニュートラル宣言が行われ、国として脱炭素に大きく舵を切ったが、その段階で日本の主要企業の多くはGHG原単位を低下させていた。つまり投資家や取引先の要請を踏まえる形で、すでにある程度の取り組みの効果が出ていたと言える。この取り組みが継続、加速していけば、日本企業の脱炭素の取り組みへの信頼感も高まると期待できる。
『野村ESGマンスリー(2022年3月)』 2022/3/10 より
野村證券 ESGチーム・ヘッド
野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト
野村證券 シニアエコノミスト