野村ESGマンスリー(2022年2月)

プライム市場上場はゴールではない:社外取締役や女性取締役の比率で株価は決まらない

  • 東証1部の8割強の企業が4月以降「プライム」に
  • コーポレートガバナンス・コード改訂への対応は道半ば
  • 取締役の多様性や報酬制度という形を作っただけでは十分ではない
  • ESGスコアの収斂は市場に影響するのかの考察も試みた

東証1部の8割強の企業が4月以降「プライム」に

2022年4月4日の東証市場再編で、現在の東証1部上場企業の8割強に相当する1841社が市場区分で最上位となるプライム市場に上場することとなった。期待されていたような形と異なる、といった様々な批判はあるものの、プライム市場に上場したからにはそれにふさわしい「プライム企業」となることが求められる。昨年のコーポレートガバナンス(CG)・コード改訂で示された、「サステナビリティ課題をリスクのみならず収益機会と認識して中長期的な企業価値向上につなげること」が指針となる。

コーポレートガバナンス・コード改訂への対応は道半ば

1月26日に東証が発表した「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2021年12月末時点)」によれば、改訂されなかった項目も含めた全83項目の原則のうち67項目で東証1部企業のコンプライ率が9割を上回った。しかし、改訂、新設された16項目では10項目のコンプライ率が9割を下回った。改訂項目では取締役のスキル開示に関わる原則(補充原則4-11(1)、コンプライ率71.1%)が、前回調査(2020年8月)比-25.8ptと最大の悪化となった。また、新設された、中核人材の多様性の確保(補充原則2-4(1)、同66.8%)、サステナビリティの基本的な方針の策定(補充原則4-2(2)、同78.8%)や取組み等の開示(補充原則3-1(3)、同66.2%)等の項目のコンプライ率は低い。もちろん、明確にエクスプレインできれば良いが、従わない理由を説明するハードルの高さを鑑みると、CGコード改訂への対応は道半ばと言えよう。

取締役の多様性や報酬制度という形を作っただけでは十分ではない

プライム市場上場会社は独立社外取締役を最低3分の1にする(原則4-8)や女性など取締役の多様性を確保する(原則4-11)といった点は、形式的な対応として注目されやすい。また、今回は改訂されなかったものの役員報酬制度の設計もCGコードに含まれており(原則4-2(1))、変動報酬制度の導入と株価の関係についても注目したい。また、TOPIX500採用銘柄を女性取締役比率によって5つのグループに分けてこの3年の株価の動きを比較すると、女性取締役比率が最も高い20%を超える銘柄群の株価パフォーマンスが劣後しているといった結果も示された。現状では、形式整備は重要ではあるものの、それが企業価値や市場の評価にとっては十分ではない可能性が指摘できる。

ESGスコアの収斂は市場に影響するのかの考察も試みた

ESG課題への取り組みを事業機会として中長期的な企業価値向上につなげることがCGコードの要諦である。政策面のサポートもさることながら足元では様々な企業が引き続き環境対応等を事業機会にしようという取り組みが続いている。また、国際的な話し合いで各種ESGスコアが今後収斂方向に向かうと想定される中、日本株市場へこれまで何らかの影響があったのか、という考察も行ったが、現状では明確な結論が出なかった。基本観として、ESGスコアの収斂・発散を意識した投資行動はまだ大きな影響力を持たないと言って良いだろう。

『野村ESGマンスリー(2022年2月)』 2022/2/10 より

著者

    若生 寿一

    若生 寿一

    野村證券 ESGチーム・ヘッド

    元村 正樹

    元村 正樹

    野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト

    岡崎 康平

    岡崎 康平

    野村證券 シニアエコノミスト

    立中 駿太

    立中 駿太

    野村證券 マクロ・ストラテジー