COP26で合意はしたものの…: 「S」と「E」が金融市場のリスク要因になる可能性も
COP26でのサプライズの一つが、米中共同宣言であった。宣言の実効性はともかく、様々な次元で米中間の対立が伝えられている中、環境面での協調姿勢により両国が決定的対立を避けたいということを内外に示すものと評価できる。しかし、その一方で人権問題を理由に欧米先進国で北京オリンピックを外交的にボイコットすべき、という議論も強まっている。また、ドイツの連立政権も中国の人権問題についてメルケル前政権より強硬だという見方もあり、今後の状況によっては「S」が金融市場のリスク要因として浮上する可能性もある。
2030年までにメタンガスの排出量を2020年比で30%削減する、というグローバルメタン誓約もCOP26の大きな成果として注目された。しかし、大幅な削減努力を求められることになるテキサス州などでは反対の声も上がっていると報じられており、アメリカ国内でメタンガス削減が順調に進まない可能性がある。バイデン政権の支持率低迷の中で環境政策の停滞が米国内の政治リスクになる可能性もあるなど、COP26の「反動」が浮上する点には注意しておきたい。
COP26で存在感の薄かった日本だが、良く言えば現実的な対応をしている。しかし、2030年の温室効果ガス排出量を2013年度比46%削減するためには現実的な対応だけでは間に合わず、原発再稼働を含む思い切った政治決断が不可欠である。とはいえ、日本も来年夏に参院選を控えるため、政治決断が下せない可能性が高い。一方、人権関連では内閣に担当補佐官を置き、経済産業省も担当部署を設置したことで、対中関係や企業の対応にどのような影響が出るか、注目される。
政治の動きを横目に、企業は脱炭素への取り組みそのものに加え、脱炭素を事業機会とする様々な動きを進めている。EVや充電ネットワークへの取り組みが広がりを見せ、脱炭素における金融とエレクトロニクスの融合を事業化しようという動きも出ている。もちろん、そうした取り組みの成否を見極める必要はあるが、当面は政治・政策の動きと企業の動きが乖離することを考慮しておきたい。
『野村ESGマンスリー(2021年12月)』 2021/12/9 より
野村證券 ESGチーム・ヘッド
野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト
野村證券 シニアエコノミスト