野村ESGマンスリー(2021年10月)

国際的駆け引きとエネルギー価格上昇の狭間で: COP26での合意レベル、および「新しい資本主義」とESGの親和性に注目

  • エネルギー価格上昇は温暖化対策推進の追い風か逆風か?
  • COP26で気候変動リスクへの懸念が軽減されるか
  • 「新しい資本主義」における「分配」は企業のESGとの親和性があるか

エネルギー価格上昇は温暖化対策推進の追い風か逆風か?

COP26を前に、エネルギー価格が上昇、EU-ETS価格も60ユーロ/トンを超えた。エネルギー価格上昇の背景は欧州で天然ガス在庫が低水準だったことや風力・太陽光の発電量が低迷していることに加えて中国で石炭採掘を抑制していることなど複合的なものであると考えられる。ただしこのことで先進国中心に2030年や2050年への目線は変わらないと考えられ、蓄電池や送電網などの安定供給体制整備に向けた追い風にもなりうる。とはいえ、コスト高を嫌気する新興国にとっては、短期的には石炭火力発電の削減を遅らせる要因にもなりうる。加えて先進国では、再エネへの移行期における電力安定供給の観点から原子力発電の位置づけへの議論が浮上するかも注目される。

COP26で気候変動リスクへの懸念が軽減されるか

そうした状況下で開催されるCOP26では、削減量の二重計上を防いだり、報告の透明性を確保するためのルール策定も含め、各国のGHG歳出削減目標とそれに伴う新興国への投融資拡大が合意されるかが最大の注目点である。国連総会での各国首脳の演説などにみられたように、様々な駆け引きが行われている模様である。グローバルな気候変動リスクに対する懸念が多少なりとも軽減される結果になるか、それとも各国が自国の政治状況に配慮して温暖化対策全体が後退することになるのかの分岐点にもなりうる。

「新しい資本主義」における「分配」は企業のESGとの親和性があるか

岸田新総理の「新しい資本主義」では、「分配」がキーワードとなっている。詳細は今後の議論を待つとして、企業部門が分配のメインプレーヤーとなり、従業員も含めたバリューチェーンに関わる人々のWell-being向上を政策面から後押ししつつ、企業業績の持続的な改善につながるようになれば、ESG(ないしサステナブル)経営が目指す考え方と目的が合致することになる。一方、失業者を含む「社会的弱者」への給付増加などが中心になるのであれば財政政策による分配強化にとどまることになる。そうした観点から今後の推移を注視したい。


『野村ESGマンスリー(2021年10月)』 2021/10/14 より

著者

    若生 寿一

    若生 寿一

    野村證券 ESGチーム・ヘッド

    元村 正樹

    元村 正樹

    野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト

    岡崎 康平

    岡崎 康平

    野村證券 シニアエコノミスト