「ウォッシング」への厳しい視線: 企業にとっては着実なサステナ課題への対応と開示が求められる点に変わりはない
8月に入って浮上した、欧州の大手資産運用会社が投資判断に当たってESG評価を実態より高く見積もっていたとする疑いは、独米監督当局が調査に入ったと伝えられたことで強まった。英NPOが「グリーンファンド」の一部はパリ協定の基準に合致しないという調査結果を発表したことも、「ESG」や「グリーン」を標榜して運用機関が投資資金を集めているのではないかという「ウォッシング」懸念につながっているとも考えられる。
とはいえ、ESG投資あるいはサステナビリティ投資の定義が確立しておらず、投資先企業・機関の情報開示基準も国際的な合意がなされていない中では、何が「ウォッシング」かを具体的に示すことは簡単ではない。運用機関を対象とするEUのSFDR(サステナブルファイナンス開示規則)でも、サステナビリティ投資を主目的とする投資商品かどうかで金融商品を分類、サステナビリティに悪影響を与えうる関連指標についての情報開示を要求しているが、「ウォッシング」の基準を示しているわけではない。こうした点を鑑みると、今後国際的な開示基準の議論を進めるとともに、開示内容を第三者が認証して透明性を担保しながら「ウォッシング」懸念を払拭するような仕組みの必要性が高まっていくことになるのではないだろうか。
開示基準については11月に開催されるCOP26に合わせてIFRS財団がサステナビリティ基準審議会を設立するとしており、議論の動向を注視する必要があろう。また9月初にケリー米大統領特使が中国を訪問するなど、COP26に向けた国家間の駆け引きが再開している。経済成長とのバランスやルール作りの主導権争い的な要素も関連するが、温暖化対応の必要性という観点から合意に至るのかが年内最大の注目点ともいえよう。
投資対象となる企業としては、自社が「ウォッシング」していないことを証明しようとするためには、情報開示を充実させながら「脱炭素」などのサステナビリティ課題に対応し、リスク管理をしながら事業機会をとらえ、中長期的に企業価値を向上させていく姿を示すことが必要であろう。そのためには、自社の商品・サービスのサプライチェーン(バリューチェーン)上に存在する課題やリスクを把握し対処することが欠かせない。
『野村ESGマンスリー(2021年9月)』 2021/9/9 より
野村證券 ESGチーム・ヘッド
野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト
野村證券 シニアエコノミスト