仏は作った。魂を入れられるか: CGコード改定後の実効性向上の必要性が浮き彫りに
改訂版コーポレートガバナンス(CG)コードが6月11日に施行された。東証の市場再編後にプライム市場に上場する条件の一つ、独立社外取締役比率が3分の1以上という条件を満たす企業は、流動性の条件を加味したうえで900社程度あると試算され、ガバナンスの形式はある程度整ってきたと言えよう。しかし、形式的な要件を満たすことがガバナンスの実効性を担保するものではないことは一部の株主総会などで示されている。その点では、CGコード改訂はあくまでも経由地点で今後はいかに実効性を高めるかが重要になろう。今回の株主総会シーズンでも、環境対応などで様々な提案や問題提起がなされた。メディアなどでは一部アクティビストの動向が喧伝されるが、各企業が、様々なステークホルダーと対話を重ねることを通じて、中長期的に企業価値を高めていくことができれば、CGコードに「魂が入った」と評価できよう。
一方、日本の「脱炭素」関連の政策具体化がややスピード感を欠いている印象がある。骨太の方針は発表されたものの、2030年に13年度比46%削減するとした温室効果ガスの内訳は決まらず、エネルギー基本計画(電源構成)の見直しも完了していない。国内の政治スケジュールが意識されている可能性があるが、11月のCOP26などを見据えた今後の国際的な議論の進展に劣後する懸念があることには留意したい。
TOPIX500指数に含まれる企業のうち、18年度から20年度のいずれの年度でも3月期決算だった387社(以下、「主要企業」)を対象に、21年の株主総会における決議の状況を集計した。集計にあたっては、年度ごとに当期を含めて3期連続でROE8%を達成できなかった企業(以下、「未達企業」)と、3期以内にROE8%を一度でも達成した企業(以下、「達成企業」)に分類した。議案ごとに両企業群の平均賛成比率に較差が生じるかどうかを確認することが目的である。
結論として、企業が提示した取締役選解任案では達成企業と未達企業との間に平均賛成比率の較差が毎年見られた。一方、他の議案については、年によって平均賛成比率の較差にばらつきが見られ、何らかの傾向を見出すことはできなかった。企業の提示した取締役選任案については、未達企業の平均賛成比率は、達成企業の平均賛成比率に比べて低い。21年の総会では、達成企業の平均賛成比率が96.5%であったのに対して、未達企業の平均賛成比率は94.6%で、1.9%ポイントの較差が見られた。この較差は20年と同じ水準だが、19年の3.4%ポイントよりも小さい。20年の株主総会では新型コロナ禍という特殊な状況にあったことを鑑みて、未達企業に対する投資家の配慮があったとされるが、21年も同様の状況が続いたようだ。
21年の主要企業の株主総会での決議状況は、均してみれば大きなサプライズはなかったという集計結果となった。この状況が、CGコード改訂などを踏まえてガバナンス改善に向けた企業や投資家の動きにつながり、今後変化していくことになるか継続的に注目していきたい。
『野村ESGマンスリー(2021年7月)』 2021/7/8 より
野村證券 ESGチーム・ヘッド
野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト
野村證券 シニアエコノミスト