各国の政策アップデート:米国の気候リーダーズサミットと炭素国境調整
4月22-23日に、米国主催の気候リーダーズサミットの開催が予定されている。現時点ではまだ大まかなテーマしか公表されていないが、米国が気候変動対策でグローバルなリーダーシップを発揮する端緒になることが予想される。米国は同サミットまでに新たな排出削減目標(NDC)を発表する予定である。グローバルにリーダーシップを発揮する観点からすると、気候変動対策で先を行くEU(欧州連合)の目標値(1990年比で55%削減、2030年時点)が一つの目安になるだろう。
米国がEU並みの目標値を策定することは、EUが検討中の炭素国境調整メカニズム(CBAM)の今後を考える上でも重要である。CBAMは、各国・地域の排出削減スタンスの違いから生じる競争上の有利/不利を調整する仕組みであるため、米欧が同等の取り組みを推進するならばCBAM導入の緊迫度がやや後退するからだ。ジョン・ケリー米国気候変動対策担当大統領特使は、貿易に多大な影響を及ぼす可能性があるCBAMの制度設計に「待った」を掛けており、米国としては気候リーダーズサミットにおける新目標の宣言をもって、EUとCBAMに対する交渉を進める可能性があろう。
日本も、同サミットを新たな排出削減目標設定の場とする可能性が出てきた。毎日新聞(4月9日付)が報じたところによると、政府は温室効果ガスの45%削減(2013年比)を新たな2030年の目標として検討しているとのことである。野村では報道の真偽を確認していないが、報道が事実であるとするならばやや野心的な目標と言えよう。実際、毎日新聞の報道でも、関係各省庁で議論に隔たりがあることが述べられている。
このほか、最近の気候変動関連トピックとして、中央銀行が如何に気候変動対策に関わるべきか、という論点も確認しよう。NGFS(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)が、中央銀行が採りうる気候変動対策について論文を公表した。大きく信用オペレーション、担保、資産買入れの三つに手法が分類されているが、いずれの手法も一長一短である。
カーボンプライシング(炭素の価格付け)やエネルギー基本計画の改定作業では、産業界の負担軽減と野心的な排出削減目標のバランスが求められており、結論に向け急ピッチで議論が進められている。コーポレートガバナンス・コード改定案では、東証市場改革後のプライム市場上場会社について、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)等に沿った気候関連の情報開示を勧奨した。
ESGリサーチ(政策)2021年4月9日 より
野村證券 シニアエコノミスト
野村證券 シニアエコノミスト
野村證券 シニアエコノミスト
野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト
野村證券 ESGチーム・ヘッド