バイデン候補の経済政策

アンカーレポート

  • バイデン前副大統領が11月の大統領選挙に勝利すれば、新たな経済目標と政策を推進するだろう。
  • 足元の新型コロナウイルスの感染拡大に対処し、環境に配慮したインフラを整備し、格差是正を促進することが最優先課題となろう。
  • バイデン新大統領の提案が実際にどこまで政策となるかは、11月の上院選挙の結果にかかっている。

11月の大統領選挙を前に、どちらの候補が次期政権を担い、どのような結果をもたらすか、まだ完全なことは分からない。ただし、現時点で判明している幅広い世論調査のデータから見て、バイデン前副大統領が夏の早い時期から大幅なリードを保っているように見える。本レポートでは、バイデン候補が勝利する場合の経済政策の見通しについて考察する。

バイデン候補の経済政策提案は、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大を受けた景気後退からの回復と、より望ましい結果を生み出すための経済構造改革という2つの明確な目標を促進することに狙いがあるようだ。パンデミック(新型ウイルスの大流行)は依然として世界及び米国経済にとって重大な脅威であり、パンデミックに対する公衆衛生対策は経済の優先事項である。失業手当の拡充、中小企業や州・地方政府、学校への支援など、現在の財政支援を拡大するため、政権発足後、早急に対処する必要があるだろう。

失業給付拡充など、基本的な財政支援を延長したのち、新政権の最初の主な経済政策イニシアチブは気候変動に重点を置いた大規模なインフラ整備法案となろう。

インフラ法案またはその他の手段を通じてバイデン氏が推進するとみられる他の優先課題としては、最低賃金の引き上げや医療へのアクセス拡大、有給傷病休暇や保育支援、労働組合の強化、企業や高所得者への税負担の増加、ハイテク企業を中心とした競争の促進、教育や移民プログラムの拡充などが挙げられる。

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さらに、バイデン氏勝利の場合、米国と世界の関係は大幅に正常化するとみられる。発足する政権 は、米国の同盟国の利益により注意を払い、国際関係の通常のプロセスにより配慮したアプローチをとるだろう。ただし、11月の選挙結果にかかわらず、米中間の対立は引き続き中期的な懸念要因となるだろう。とは言え、バイデン氏は、政策を進める際に関税ではなく制裁に訴える可能性がより高いだろう。

インドと米国は、民主主義という共通の価値観を共有している。両国には貿易面での摩擦もみられるが、外交面では連携を維持している。インドは(米国、日本、豪州と共に)四ヶ国戦略対話を通じた非公式な同盟関係にあり、同地域における中国の影響力に対する重要な対抗勢力としての役割を果たしている。バイデン政権下では、両国関係の強化が予想される。

ASEAN(東南アジア諸国連合)については、バイデン氏の大統領就任が地域の経済見通しにプラスになるかどうかは不明である。米国の外交政策が敵対的でなくなれば、ASEAN諸国がこれを歓迎するのは確かであろう。しかし、米中の緊張が続き、中国からの輸入品に課されている高い関税が軽減されそうにない場合、輸出の低迷と保護主義政策の継続がASEAN地域の成長見通しを圧迫し続ける可能性がある。

日本に関して、日米関係が様々な面で「正常化」するかどうか現時点では不明である。バイデン候補と民主党は、トランプ政権が発動した制裁関税を取り下げる意向を明らかにしたが、任期中に多国間自由貿易体制に復帰するかどうかについては言及していない。同時に、世界的に分断されていた気候変動対策が大きく動き始める可能性があり、こうした展開が現実となれば、日本でも環境政策に対する注目が高まり、20年後半から2021年にかけて、環境をキーワードとした施策や企業行動、イノベーションが注目されやすいと考えられる。

韓国においては、バイデン氏勝利の場合、現在とは全く異なる状況に直面することになろう。明るい側面としては、外交政策がより穏やかになり、企業活動面の不確実性が後退するであろう。この点は、バイデン候補が提案するグリーン経済(持続可能な開発・発展)の促進と相まって、世界の設備投資の回復の追い風となろう。これは、2つの面で、韓国経済にプラスになると考えられる。第1に、グリーン経済の推進は、国内経済の産業再編を加速させ、韓国企業が新たな成長戦略をより積極的に実行することを可能にしよう。第2に、米国がパリ気候変動協定に復帰すれば、グリーン経済のための市場拡大につながろう。

豪州は、地政学的には各々の歴代の政権が数十年間にわたる強力な関係を醸成してきた。バイデン氏勝利の後も、この強力な協力関係は続くと予想される。一方、a) 争点はいくらか変化するものの、米中の緊張は今後も続くとみられ、b) 豪州は安全保障面で米国との緊密な関係を維持し、c) 中国の経済的な存在感はますます増大する、ことから、豪中関係の緊張は続くと予想される。

欧州(西欧)に目を向けると、米国が実施するとみられる追加の財政刺激策(欧州にも影響波及が見込まれる)や外交関係の改善、欧州連合(EU)域内で製造された自動車に対して米国が輸入関税を課すリスクが低下することは、いずれもプラス効果をもたらすと思われるが、バイデン政権下で米英がスムーズに貿易協定合意に至るかについては疑問が残る。

アンカーレポート Economic Policy Under Biden Administration 2020/8/31より

著者

    ルイス・アレクサンダー

    ルイス・アレクサンダー

    米国 チーフエコノミスト

    ジョージ・バックリー

    ジョージ・バックリー

    欧州 チーフエコノミスト

    ティン・ルー

    ティン・ルー

    中国 チーフエコノミスト

    美和 卓

    美和 卓

    野村證券 シニアエコノミスト

    ユーベン・パラクエレス

    ユーベン・パラクエレス

    東南アジア エコノミスト

    アンドリュー・タイハースト

    アンドリュー・タイハースト

    豪州 金利 エコノミスト

    ソナル・バルマ

    ソナル・バルマ

    インド・AEJチーフエコノミスト

    クレイグ・チャン

    クレイグ・チャン

    新興国戦略 グローバルヘッド