ESGリサーチ(政策): COP26に向けた論点整理

11月1日~2日の首脳級会合が最大の注目点

2年ぶりのCOPの論点整理

10月31日~11月12日にかけて、COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)が英グラスゴーで開催される。コロナ(新型コロナウイルス感染症)蔓延で昨年実施分が延期されたため、開催は2年ぶりだ。コロナ禍によって世界経済は未曽有の危機に陥ったが、その最中でも各国・地域は気候変動対策を大きく加速させてきた。今回のCOPは、そうした国・地域による取り組みの成果や今後の貢献意欲がアピールされる場になるだろう。

COP26の注目点

今回のスケジュールにおいて最も注目が集まるのは、11月1日~2日に3コマに分けて行われる首脳級会合だろう。というのも、通常、COPでは首脳級会合は開催されないからだ。過去25回のCOPにおいて、首脳会合が開催されたのは2009年(京都議定書の後継議論の開始)と2015年(パリ協定の採択)の2度のみである。

COP26の首脳級会合の議題は、今のところ明らかではない。想定される議題は、(1)米国・EU(欧州連合)によるグローバル・メタン誓約への参加呼びかけ、(2)各国・地域それぞれの野心的な気候変動対策のアピール、(3)先進国から新興国への資金援助の拡大に関する議論、(4)グローバルなカーボン・プライシングの在り方に関する議論、(5)タクソノミー(経済活動の環境負荷を評価する分類基準)の在り方を巡る議論、などである。このうち(1)と(2)は実現してもサプライズとは言い難いが、(3)、(4)、(5)について動きが出るようであればサプライズと呼べるだろう。

先進国から新興国への資金援助は、特に新興国側の関心が強いトピックである。2021年に入ってからも、インドや南アフリカが脱炭素加速に必要として援助の増額要請を行っている。その意味では、新興国との協調関係を築く上で、このトピックが首脳級会合の議題に上がる可能性はあろう。しかし、これまでの経緯を確認すると、火急の議題とも言い難い面がある。というのも、新興国への資金援助は、2010年のカンクン合意において「2020年までに1,000億ドル/年まで援助額を拡大させる」ことが合意されたのち、パリ協定において「2025年まではカンクン合意の援助水準を維持したうえで、それ以降はカンクン合意の水準を最低限とした援助を2025年までに合意する」ことが定められている。すなわち、先進国の立場からすれば、更なる資金援助拡大に向けた議論は今しばらく先送りされるはずの事項なのである。とはいえ、コロナ禍で世界経済は大きな経済的被害を被っており、その影響はワクチン供給が行き届いていない新興国でも大きい。ブルームバーグ報道(10月25日付)によれば、カナダとドイツが作成した報告書において、2020年までに達成するはずだった1,000億ドル/年の資金供給が実際に実現されるのは2023年になるとの試算も提示されている。先進国とて財政を巡る議論は尽きない状況であるが、気候変動問題で世界的にリーダーシップを取りに行くならば、首脳級会合で議論が前進する可能性はあるだろう。

カーボン・プライシングでは、EUが進めるCBAM(炭素国境調整メカニズム)やIMFが主張するグローバル最低炭素税、国際クレジット取引など、国家間の調整が必要な課題が複数存在している。これらの課題に取り組むための枠組みが提案される展開に期待したい。

タクソノミーに関しては、EUタクソノミーの一部が2022年1月に適用開始となる一方、中国を始めとするその他の国・地域でも独自のタクソノミーが作成・検討されており、貿易や国際証券取引等で混乱を生む可能性がある。この点についてはIPSF(サステナブルファイナンスに関する国際プラットフォーム)が共通基盤タクソノミー(common ground taxonomy)を11月中にも公表する予定であるが、共通基盤タクソノミーは、あくまで各国・地域のタクソノミーの共通部分を整理する取り組みに過ぎない。タクソノミーの国際的な統一を目指すような枠組みについて、COP26で言及がなされるようであれば大きなサプライズであろう。

COP26議長が進展を期待するトピック

この他、アロック・シャーマCOP26議長(元英国ビジネス・エネルギー・産業戦略大臣)は、以下6点についての進展に期待を寄せている。これらはCOP26公式の議題ではないが、期間中に各国・地域の政府が個別に会談を行なったり 、民間イニシアチブが新たなコミットメントを表明することが期待されている。

  • 石炭火力発電の段階的廃止の加速
  • 再生可能エネルギーへの投資奨励
  • 森林破壊の削減
  • 自然保護のための適応
  • 電気自動車への切り替えの加速
  • 気候変動対策への資金

出所: 公益財団法人地球環境戦略研究機関資料より野村まとめ作成

成長と両立する気候変動対策が求められる

COPに大きな関心が寄せられているのは、「コロナ後」の世界経済の協調の枠組み、そして成長戦略として、気候変動対策が重要な位置を占めるからだろう。COP26の結果を着実に消化しつつ、2022年に向けて更に加速する気候変動対策の行方を追うことが重要である。2022年にかけては、会計制度や金融商品に気候変動の考え方が一層深く影響を及ぼしていくことが予想される。日本においても、カーボン・プライシングの議論が2021年末にかけて再び深められた後、2022年には新たなクレジット取引制度の実証が行われる見込みだ。グローバルな気候変動対策にしっかりと貢献しながらも、国内の経済成長を実現するような施策を採用できるかが、気候変動の観点から見た日本政府の課題であろう。

ESGリサーチ(政策)2021/10/27より

著者

    岡崎 康平

    岡崎 康平

    野村證券 シニアエコノミスト