中国:通商関連

もはや無視できない規模に達した個人向け非課税輸出と関連リスク

  • 中国の個人向け輸出急成長の背景
  • 中国の個人向け輸出における4大EC業者の役割
  • 「デミニミス」輸入に対する監視の強化
  • 「デミニミス」輸入に対する今後の規制強化の影響

中国では住宅セクターの深刻な危機が依然続く中、輸出が唯一かつ最大の成長の原動力となっている。輸出の中では、米国では800ドル以下、他の国・地域ではさらに少額の基準以下の物品への関税が免除される特例、いわゆる「デミニミス(非課税基準)」ルールが追い風となり、消費者直販型(個人向け)輸出が急増している。米欧の国会議員がこれら関税ルールの「抜け穴」をふさぐ準備を進め、特に共和党のトランプ大統領候補が中国に対する締め付けの強化を掲げる中、中国の個人向け輸出の正確な規模とこれらに対する規制の潜在的影響に市場の関心が集まっている。野村の推計では、中国の個人向け輸出は2024年に2,400億ドルに拡大し、総輸出比7.0%、GDP比1.3%に達する可能性がある。米国やその他の国・地域が中国の個人向け輸出に制限を課した場合の影響に関するシナリオ分析も行う。

中国の個人向け輸出急成長の背景

米国による18年春の中国製品への25%追加関税導入、16年の「デミニミス」ルールの非課税限度額引き上げ(200ドルから800ドルに引き上げ)、中国の輸出業者に対する規制上の負担の一段の増大、越境EC(国境を越える電子商取引)プラットフォームの台頭を背景に、中国の個人向け輸出は17~23年に年平均50%を超えるペースで急増してきた。残念ながら、その性質上、中国の個人向け輸出に関する信頼性の高い統計は存在しない。野村では3つの異なるアプローチを採用し、23年の中国の個人向け輸出が総額約1,780億ドルと、輸出総額の5.8%を占めたと推定している。24年前半には、中国の個人向け輸出の伸びは23年の前年比+63.3%から同+41.3%に鈍化したと推定される。

中国の個人向け輸出における4大EC業者の役割

「デミニミス」による課税免除は、中国4大EC業者(ファストファッション小売企業のSHEIN、Pinduoduoが展開するTemu、AlibabaのAliExpress、TikTokのTikTok Shop)の台頭を加速させた。22年時点で、米国ファストファッション市場におけるSHEINのシェアは50%と、ZaraとH&Mの合計を上回った。衣料品以外の商品も提供するTemuは、23年6月にSHEINの売上を上回った。Data.aiによると、TemuとSHEINは、23年のダウンロード数およびダウンロード数の伸びでそれぞれ世界トップ2のショッピングアプリとなった。

「デミニミス」輸入に対する監視の強化

一方、世界では、「デミニミス」輸入の急増が議論され、政策対応が進められている。米国では、「中国のデミニミス濫用防止法案(End China’s De Minimis Abuse Act)」(中国本土からの少額小包輸出に対する免税措置の廃止)を含め、「デミニミス」ルールの改正に向けて3つの法案が提出されている。7月のFinancial Times紙によると、欧州委員会も現行の少額品免税制度を撤廃する方針である。ブラジル、インド、タイ、フィリピンなど一部の新興国も、「デミニミス」輸入に対する制限を導入、または導入を検討している。

「デミニミス」輸入に対する今後の規制強化の影響

米国やその他の国で「デミニミス」輸入に対する締め付けが強化される場合、中国経済全体、特に中国の輸出にどのような影響が生じるのか。当然ながら、その答えは主にこれらの国がどのような制限を課すかにかかっている。野村では3つの異なるシナリオ下での中国の輸出と経済成長率への潜在的影響を分析した。基本シナリオでは、米国のみが中国からの輸入品に対するデミニミス・ルールの適用を除外し、中国の輸出の伸びが1.3%ポイント、実質GDP成長率が0.2%ポイント押し下げられると想定している。最悪シナリオでは、米国、欧州、ASEAN(東南アジア諸国連合)各国が中国のデミニミス・ルールの適用を除外し、輸出の伸びが2.9%ポイント、実質GDP成長率が0.6%ポイント押し下げられる可能性がある。最良シナリオでは、適用除外はなく、監視強化のみにとどまると想定しており、この場合、輸出の伸びは0.4%ポイント、実質GDP成長率は0.1%ポイント低下し得る。

『中国:通商関連』2024/8/19 より

著者

    Hannah Liu

    Hannah Liu

    China Economist

    ティン・ルー

    ティン・ルー

    中国 チーフエコノミスト