中国 -高齢化、年金給付の格差、消費低迷
新型コロナウイルス関連の厳格な行動制限解除から1年半が経過したが、個人消費は依然としてコロナ禍前のトレンドを大きく下回っている。消費の低迷は、不動産バブルの崩壊、株価の下落、賃金の伸び悩み、コロナ禍による永続的な傷跡、地政学的緊張の悪化による資本逃避など、さまざまな要因によって説明できる。これらすべての要因が影響している可能性があるが、我々は、消費低迷には、1960年代初めの飢饉後の出生ブームを反映した急速な高齢化と、異なる社会集団間の年金給付の極端な不平等という、より長期的な構造的問題が相互に影響し合って作用していると考えている。政府は、今後数年間の持続可能な成長を達成するために消費の促進に取り組むことを約束しているが、我々は、社会的弱者、特に農村部の高齢者(元出稼ぎ労働者を含む)の年金給付を引き上げることが、消費を促進し、不平等を減らすことにつながると考えている。
消費不足は、中国が持続的な経済成長を達成することを妨げている根深い構造的問題として、多くのエコノミストが長年にわたり指摘してきた問題である。国家統計局によると、2023年の中国の最終消費支出はGDPの55.7%を占めるが、これは先進国のみならず、一人当たりGDPが同程度の国と比較しても低い水準にある。投資と輸出への過度の依存と所得格差は、消費低迷の主要な構造的要因である。さらに、21年半ばに始まった長引く住宅危機が、足元の消費の制約要因となっている。政府は以前から消費をテコ入れする必要性を認識しており、改革と短期的な刺激策の両方でこの問題に対処しようとしているが、これまでのところ、取り組みの成果は限られる。
主要な構造的要因の中でも急速な高齢化は、高齢者人口の急増により消費の差し迫った足かせとなっている。加速する高齢化の問題は、1960年初めの大飢饉後の中国の出生ブーム期間(1963~1972年、年間出生数が2,700万人以上)に生まれた世代が法定退職年齢に達し始めた23年以降、より深刻になっている。23年と24年の両年で、年間2,300万人以上が新規に退職者になると予想される。親を支え、その世話をすることは中国社会の伝統的な美徳であるが、少子化および一人っ子政策の結果として、高齢化する人口を、伝統的な家族による支援だけに頼れる可能性は低くなった。急速な高齢化は、特に年金の面で高齢者の社会的保護の重要性を浮き彫りにしている。
年金給付は社会階層ごとの格差が非常に大きく不平等である。政府職員(公務員)の年金は、退職前賃金とほとんど変わらない水準を維持することが多いが、退職者全体に占める割合はわずか7.0%である。退職者全体の38.3%を占める企業従業員の年金は、現役時の収入の約半分である。一方、全体の54.7%を占める農村部の高齢者(元出稼ぎ労働者を含む)は、年金給付の水準が企業年金受給者の6.5%、政府年金受給者の3.4%にとどまるため、高齢になり非農業雇用市場から排除されると収入が激減する。大多数の退職者が突然収入を失うことは、消費需要にとってマイナスである。このような極めて不平等な年金制度は、所得格差をさらに悪化させ、消費をさらに下押ししかねない。また、(消費は恒常所得(の期待)に依存するとする)「恒常所得仮説」が示唆するように、退職後に収入が激減すると予想される場合、人々は退職前に貯蓄を増やし、消費を減らす傾向がある。
『アジアスペシャルレポート』2024/8/20 より
China economist
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中国 チーフエコノミスト