アジアが輝く時
投資家は過去1年間、新興国に対する保有リスクの削減をより重視してきたが、グローバルなプッシュ要因と地域的なプル要因の流れが一致するなか、アジアの中期的な見通しについて前向きにとらえ始めるだろう。
世界的に見て、成長が鈍化し、政策金利の引き上げ局面が終了するという見通しは、投資家に、健全な経済ファンダメンタルズと持続可能な成長をより重視しつつ新たな機会を探すよう促す要因となろう。アジアは、より強固な経済ファンダメンタルズを有することに加え、国内のビジネス環境の改善を積極的に模索する改革志向の政府、そして多くの新たな刺激的な成長機会を有するという意味で、その条件に合致していよう。コロナ禍以降、アジアへの投資は「アンダー」の状態が続いているが、市場の再評価が進みアジアにポジティブな光を当てるにつれて、この状況は変化し、世界のなかでアジア経済の存在感が高まるにつれ、アジアはより多くの資本流入を引き寄せると予想される。
中国経済が構造的な課題や地政学的な逆風にさらされており、中期的には成長が鈍化する可能性が高いという点について、我々は一切幻想を抱いていないが、規模の面では依然として中国は巨大な経済大国であり、世界経済の成長に占める寄与は4分の1を超えている。中国経済が減速するとしても、野村の中期見通し(2024~28年)予測では、アジアの実質GDP成長率(年平均+4.2%)は他の新興国であるラテンアメリカ(同+2.4%)や欧州新興国中東アフリカ(CEEMEA)(同+3.2%)はもちろん、米国(同+1.8%)を上回る見通しだ。中国に代わって、インドと東南アジアがこの先の10年間で最も急速に経済成長する可能性が高い。アジア経済の成長を雁の飛形になぞらえる「雁行モデル」のパラダイムが再び動き出した。
ここでは野村が注目するアジアにおける10大テーマを示す。
サプライチェーン再配置が追い風に:世界のサプライチェーンの変化はまだ初期段階にあるが、今後3~5年で加速し、インドと東南アジア(ASEAN)を筆頭にアジアが最も恩恵を受ける可能性が高い。
アジアの新たな「雁の群れ」は南に向かう:健全なマクロ経済政策と、北アジアに対する東南アジアとインドの比較優位は、対内直接投資と証券投資を通じた資本流入の増大につながり、より多くの北から南への流れをもたらすだろう。
インフラ投資が優先されよう:中期的にインフラ投資の関連支出や計画実行が加速し、特にインド、インドネシア、フィリピンで進展が期待できるとの楽観的な見方を維持するいくつかの理由がある。
日本の待望の構造的変化:持続的なインフレと労働力の流動性が高まるなかで経済が回復すれば、日本企業の価格設定行動における一大変革と収益力改善につながる可能性がある。
中国は再生エネルギー移行が大きな機会に:カーボンニュートラルに向けた中国政府の公約は再生可能エネルギーへの強い需要を生み出しており、また再生エネルギー関連で圧倒的なサプライヤーでもあることから、中国は恩恵を受けよう。電気自動車(EV)、太陽光、リチウムの分野にチャンスがあろう。
インドは成長加速が見込まれる:構造改革と資本支出の強化により、インドの実質GDP成長率は中期的に年率+6.6%前後に達し、通貨ルピーを支えるだろう。インフラ、金融、裁量消費財の分野にチャンスがあると考えられる。
インドネシアは川下部門を強化:金属輸出の付加価値を高める動き(ダウンストリーム政策)は今後も勢いを増し、EV生産体制の発展を支援し、経常収支と通貨ルピアを支えるだろう。
人民元の利用拡大:世界と中国の貿易量拡大と足元の地政学的動向を考慮すると、人民元決済へのシフトの高まりは、人民元に対する強力な中期的支援要因となろう。
AIがアジアにもたらす機会:世界的なAIブームは、半導体の中核製造技術と世界的なハードウェアサプライチェーンで支配的地位にあるアジアのエレクトロニクス企業に恩恵をもたらすだろう。中国独自のAI関連の能力は国内でより多くの機会を見出そう。
アジアにおけるグリーン/EV産業がもたらす機会:グリーン産業やEV産業への投資ブームが拡大する中、中国や韓国の企業にもメリットがあると考えられる。さらに、グリーンボンド発行は今後数年でさらなる増加が見込まれる。
『アジアスペシャルレポート』2023/6/12 より
グローバル マクロ リサーチ ヘッド
インド・AEJチーフエコノミスト
東南アジア エコノミスト
Economist, Korea
チーフエコノミスト
新興国戦略 グローバルヘッド
Asia Rates Strategist
Equity Strategist, Southeast Asia
Co-head of APAC Technology Research
Head of Basic Materials research, Asia ex-Japan
Head of Equity Research, India
チーフ・エクイティ・ストラテジスト