日本経済版・「今年の漢字」「新語・流行語大賞」で2022年を締めくくる
今や、「今年の漢字」「新語・流行語大賞」の選出は、年中行事となった感がある。2022年最後となる「マクロの窓」においても、昨年に続き、独断にて日本経済版「今年の〇〇」を選定し、今年を締めくくることにする。
世界的なインフレ加速とその持続を背景に、米国を筆頭として主要先進国・地域中央銀行が一斉に金融引き「締」めに転換したこと、また、その影響が日本の国債市場における流動性の引き「締」まりをはじめ、様々な面において日本経済にも多大な波紋を及ぼした点から、日本経済の「今年の漢字」は「締」とする。
年末にかけては、米国FRB(連邦準備制度理事会)による政策金利引き上げの減速・休止期待が高まり、金融引き締めの一巡が早くもテーマになりつつある。一方、12月20日に日本銀行は、10年長期政策金利の許容変動幅を従来の±0.25%程度から、同±0.50%程度へと拡大することを決定した。2023年の年明けは、日本銀行の金融政策が引き締め方向へ転換するのではないかとの観測がくすぶる中で迎えることになる可能性もある。
2022年を象徴する世界的な金融引き締めへの転換が、2023年においては、野村が予想する米欧でのリセッション(景気後退)のみならず、種々の高リスク資産の調整を伴いつつ金融システムの不安定化をもたらす可能性には注意を払う必要があると考えられる。
黒田日銀総裁が22年6月6日の講演において、「企業の価格設定スタンスが積極化している中で、日本の家計の値上げ許容度も高まってきているのは、持続的な物価上昇の実現を目指す観点からは重要な変化だ」と、物価安定目標達成に向け前向きな事象として言及したことが、のちに批判を浴びたことで注目された表現である。翌7日には、参議院財政金融委員会での答弁において「必ずしも適切な言い方ではなかった」「講演内容が100%正しいか若干ためらうものがある」などと、早くも釈明に追われる事態ともなった。
物価安定目標実現には、中長期的な期待インフレ率が2%程度で安定することが条件の一つとされるが、その際、家計の購買行動において定期的な値上げが受容されている状態は同条件が成就したかどうかを判断する重要な指標となりうる。しかし、食品、エネルギーを中心とする物価高で家計の生活が圧迫されつつある中、値上げの受容性を前向きな事象として言及したのはやや不用意であったことは否めないだろう。
客観的には、物価安定目標実現や日銀の政策修正の与件の一つとして重要な指標でありながら、大衆心理的、政治的に不本意な形で注目を集めてしまった用語として、今年の流行語大賞に選定する。
岸田首相が、22年5月のロンドン訪問時の講演において、日本市場への投資を呼びかける趣旨で用いた。故安倍元首相の打ち出した「アベノミクス」との違いや、自身の経済政策の独自性をアピールする狙いもあって用いられたものと推測される点で、まさに「新語」である。「アベノミクス(バイ・マイ・アベノミクス)」に比してインパクトに欠けるとの批判もみられたが、「資産所得倍増ブラン」「人への投資拡大」などの点で徐々に具体化しつつある「新しい資本主義」の下、日本経済や日本の金融市場のパフォーマンスが来年2023年以降改善をみせていくことへの期待も込めて、2022年の新語大賞に選定する。
読者諸氏にとって2023年が佳き1年になることを祈念し、2022年の筆を擱くこととする。
12月23日付レポート「日本経済ウィークリー - 回顧2022:波瀾万丈の年に」より
野村證券 経済調査部長