野村ESGマンスリー(2021年4月)

見え隠れし始めた「理想と現実」:国家間の主導権争いや目先の業績が現実問題に

  • 内外企業による環境対応強化策や、大手機関投資家による投資先のカーボンニュートラル促進の発表が続いています。さらにコーポレートガバナンス・コードの改訂案に気候変動リスクの情報開示強化が盛り込まれるなど、環境対応への動きは強まっています。
  • しかし、ESG推進で有名なフランスの食品会社CEOが業績不振を理由に解任されたり、政策協調でも各国間で主導権争いのような動きが生じたりしています。環境対応という理想と、現実の企業経営や政策運営のズレに今後注意が必要かもしれません。
  • 日本のコーポレートガバナンス・コード改訂は、2022年4月の東証の市場区分見直しとも関連しています。プライム市場に上場するための条件が示されましたが、ハードルは高い可能性があります。

カーボンニュートラル(CN)に向けた対応は様々な形で進む

内外企業の環境対応強化を盛り込んだ中期経営計画の表明が進んでいる。また、それを後押しする形で内外大手機関投資家のCNエンゲージメント表明が広がり、日本国内でも新たなESGファイナンスの実行が発表されている。加えて、金融庁と東証が公表したコーポレートガバナンス・コード改訂案では、気候変動リスクに関する情報公開強化が盛り込まれ、上場企業は、程度の差こそあれ、環境問題への対応を進めざるを得なくなっている。

政策面でも、日本でのカーボンプライシングに関する議論が行われる一方で、2050年CNに向けた中間地点として2030年のエネルギーミックスについても様々な意見が出始めている。目先は気候変動サミットに向けて日本政府から2030年のCO2削減目標が上積みされるとの見方もあり、具体的な政策の議論がさらに進展することが期待される。

ESG投資に関連して分かりにくいとされてきた、企業の非財務情報の公開基準についても、今年11月に予定されるCOP26を前に議論を進展させようという機運も出てきており、これもグローバルにESG投資の後押し要因と期待される。

ESGは経営者の「免罪符」ではなく、ルール作りでは国家間の主導権争いも

一方で、ESG経営の推進者として著名なフランスの食品会社のCEOが業績不振を理由に解任されるなど、ESGは経営者にとっての「免罪符」ではないという現実も現れてきた。今後、長期的にはESG経営と業績改善の好循環を作れるかという「サステイナブルなESG」を考えていく必要性を示唆しているとも考えられる。

また、米国のケリー大統領特使(気候変動担当)が、EUの国境炭素調整メカニズムに距離を置いた発言をしているなど、具体的なルール策定においては国家間の主導権争いも絡んで不透明要因ともなりうる点には注意が必要であろう。さらに、人権問題での欧米諸国と中国の対立も続いており、それが環境政策協調にマイナスとなるのかという点にも目配りしておきたい。その点では4月22~23日に米国主催で開催予定の気候変動サミットに中国が参加するのか、そしてそこでどのような議論が行われるのかが注目される。

野村ESGマンスリー(2021年4月) 2021/4/13 より

著者

    若生 寿一

    若生 寿一

    野村證券 ESGチーム・ヘッド

    元村 正樹

    元村 正樹

    野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト

    岡崎 康平

    岡崎 康平

    野村證券 シニアエコノミスト